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    FINAL FANTASY W 〜明日への勇気・1〜


    「ローザ!!」
     セシルは、砂漠の光でローザを照らした。これでどうして高熱病が治るのか、セシルは知らない。砂漠の光には破邪退魔の力があるというから、もしかしたら高熱病は呪いの一種なのかもしれない、と頭の片隅で思った。
    「ううん……」
     光で照らすこと数分後。短く浅かったローザの呼吸は落ち着いたものへと変わり、熱で薔薇色に染まっていた頬もその色が薄まってきている。
     予想以上の効果に、セシルが安堵の息をついた、その時。
    「……ん」
     ローザの長い睫毛が小さく震える。
    「……ローザ?」
     そっと呼びかけるとローザの瞼がそっと持ち上がり、焦点の合わない瞳がしばし宙を彷徨う。どこか虚ろだった瞳が、セシルを捉えた瞬間、覚醒した。
    「セシル!? 私っ……!」
     いきなり身を起こそうとしたローザは、突如襲ってきた眩暈に額を押さえた。ローザの肩をセシルは慌てて支える。熱は引いてきてはいるものの、その肩は熱の名残を残してまだ熱い。
    「無理をしてはだめだ! 君は高熱病で倒れたんだよ」
    「そう、そうだわ……。私、バロンであなたがカイポの大地震に巻き込まれて死んだと聞いて……信じられなくて……飛空艇に忍び込んで、カイポへ……」
     忍び込んだ飛空艇とは、リディアを追ってきた兵士達のものだろうと考えながらも、セシルはローザの独白に苦笑する。
     常に控えめで思慮深いローザだが、時々後先考えない行動を起こすことがあるのだ。
    「無茶をする……」
    「ごめんなさい」
     ローザは軽く目を伏せてから、セシルを見て幸せそうに微笑んだ。
    「でも、よかった。あなたが無事で」
    「ローザ」
     ローザは笑みを浮かべたまま、部屋の隅で若干居心地悪そうに自分たちを見守る金髪の美しい青年と緑の髪の愛らしい少女に視線をやり、首を傾げた。
    「……この二人は?」
    「ああ。ダムシアンのギルバート王子に、ミストのリディア。二人とも君を助けるのに力になってくれたんだ」
     リディアは心配そうにベッドの脇に近付くと、まだ顔色の悪いローザを見上げた。
    「だいじょうぶ?」
    「ええ。ありがとう、リディア。ギルバート」
     リディアの頭に手を伸ばし、優しく撫でたローザは、慈愛の笑みを浮かべた。
    「ローザ。聞きたいことがある」
     セシルの真剣な声音に、ローザも居住いを正す。
    「何かしら?」
    「ゴルベーザ。奴は何者なんだ? 『赤き翼』を指揮していると聞いたが……」
    「そのとおりよ。ゴルベーザはあなたの後を引き継いで『赤き翼』の部隊長に就任したの。陛下がどこかから呼び寄せたって話だけれど……彼がどこの誰なのかは誰も知らないわ。……ゴルベーザが来て、陛下はますます変わってしまわれた。だから……もしかしたら……」
    「ゴルベーザが、陛下を?」
     それならば陛下の豹変の理由も分かる気がした。陛下は操られているのかもしれない。ゴルベーザに。
    「たぶん、そうだと思うわ。……ゴルベーザはクリスタルを狙っているのよ。ミシディアのクリスタルは既にバロンに」
    「ダムシアンの火のクリスタルも……敵の手に落ちました……」
     ギルバートが悔しそうに唇を噛み締め、呟く。
    「ならば、次はファブールの風のクリスタル! こうしては……」
     そこでローザは言葉を詰まらせた。肩を震わせ、激しい咳を繰り返す。セシルはローザの背を撫でながら、首を横に振った。
    「病み上がりの君に、この旅は過酷過ぎる。君はここで休んでいるんだ。ファブールへは僕らが行く」
     だがローザは頷かなかった。目の端に涙を滲ませながらも気丈に微笑む。
    「少し休めば平気よ。それに私も白魔道士、足手まといにはならないはずよ」
     その表情と言葉が、何が何でもついていくという固い決意を物語っている。
    「セシル……。ローザは君と一緒にいたいんだよ」
     ギルバートの言葉に、セシルは目を閉じた。こうなった彼女が梃子でも動かないことは、セシル自身がよく知っている。セシルは目を開けると、観念したように頷いた。
    「分かった。君は僕が守るよ」
    「セシル……!」
     ぱっと表情を輝かせるローザに、セシルはただし、と言葉を添えた。
    「今日は安静にしていること。いいね?」
    「ええ」
     ローザが幸せそうに微笑む。ギルバートはそれを満足そうな、けれどどこか寂しげな笑顔で見守り、リディアはどこか呆然と見守っていた。 

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