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    FINAL FANTASY W 〜FINALE・4〜

     ぽんっぽんっと祝砲の音が雲一つない快晴のバロンの空に響く。
     いつも以上に賑やかな城下町を行き交う人々の表情は、皆明るい。偽のバロン王による侵略行為と本物のバロン王を失った悲しみで少し前まで暗い雰囲気だったのが、まるで夢のようにすら思える。
     いつまでも悲しみに沈むことを、亡きバロン王は悲しみこそすれ喜ばないだろう。亡きバロン王のためにも、前を向き、バロンをよりよい国にしていかなければ。
     バロン王の仇を討ち、この青き星を救った英雄のひとり、元赤き翼団長のセシル・ハーヴィ。彼が同じく英雄のひとりであるローザ・ファレルとの婚姻と王位に就くことを発表した時の宣誓文の一部だ。
     そして、今日はその二人の結婚式と戴冠式なのである。
     これほど、素晴らしい日があるだろうか。城下町はお祝いムード一色である。
     亡きバロン王の遺志を継ぐ、若き英雄王の誕生。きっとバロンは――いや、バロンだけではない。世界は素晴らしい未来に向って、手を取り合って進んで行ける。
     そんな希望に溢れた城下町に、再び祝砲の音が鳴り響いた。

     結婚式と戴冠式を前にして、セシルとローザはセシルの部屋でお茶を飲んでいた。
     もうしばらくしたら、ローザは準備を始めなければならない。そうすれば一息つくこともままならないだろう。だから、その前に少しだけのんびりしない? とローザに持ちかけられ、セシルは快諾したのだ。
    「……もう少しだね」
    「そうね。……もう、みんなバロンに着いてるかしら?」
    「そうだね。そろそろ着いているかもしれない」
     そう言って、セシルはティーカップをソーサーに置いたその時。
    「――……っ!?」
     突然、弾かれたように顔を上げるセシルに、ローザは小さく首を傾げる。
    「どうしたの? セシル……」
     その問いかけに、セシルはどこかぼんやりとした様子で応じた。
    「いや……。兄さんの声が聞こえた気がして……」
    「何て?」
     さらに首を傾げるローザに、セシルはゆるゆると首を横に振った。
    「いや……気のせいだよ。たぶん……」
     ちょっとナーバスになってるのかな、と呟いて微笑んでみせると、ローザもそれはそうかもしれないわねと微笑みを返してくれた。
     今日はセシルとローザにとっても、バロン王国にとっても大切な日だ。緊張しないわけがない。
     そんなしんみりした空気を壊すように、階段をだかだかと駆けあがってくる音がする。その足音だけで、誰が来るのか分かった。たぶん、シドだ。
    「……何じゃあ! ふたりともまーだこんな所におったのか! せっかくの晴れの日に何をしとるんじゃ!」
     だって自室が一番落ち着くし、なんて言おうものなら、シドに何を言われるか。十分にそれを承知しているローザは、小さく苦笑した。
    「ごめんなさい、つい……」
    「まったく、イチャつくのはこれからいつでも出来るわい! ……ささ、ローザ……いや、お妃様じゃったか!」
     その言葉に、ローザは本気で嫌そうに眉をしかめた。父親のように慕っている人に、お妃様なんて呼ばれたくない。
    「いいわよ、今までどおり、ローザで」
     そう言うと、シドはあっけらかんと頷いた。ローザがお妃様になろうが、シドにとって可愛い子どもであることに違いはない。ローザ自身の許可もあることだし、これからも堂々とローザと呼ぶことが出来るのは、むしろ喜ばしいことだ。
    「うむ! では、ローザ! 花嫁たる者化粧が肝心じゃ!! メイドに準備をさせておる!! さ、急ぐぞ! 戴冠式までもうすぐじゃ!!」
    「ええ! みんなに会うのも久しぶりね。セシルも、急いでね」
    「ああ」
     そうしてローザを連れて、シドはセシルの部屋を去っていく。シドの大きな足音が遠ざかっていく。シドの慌ただしさは相変わらずだ。
     それを苦笑して見守っていたセシルだったが、ふと口元から笑みを消して、目を伏せる。
    「確かに、聞こえた……。兄さんの声で……」
     ――さようなら、と。 

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