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    FINAL FANTASY W 〜FINALE・3〜

     マグマの光に赤く照らされた、ドワーフ達の城。その屋上から、カンカンとリズムよい金槌の音が響く。
    「ラリホー!」
     ドワーフ達が、あの戦いによって破損した城の修繕作業をしていた。
     その作業の中央で作業の指揮を執っているのは、この城の主・ジオットだ。
    「よいかー! 一刻も早く城を修繕するのだ!」
     設計図を握りしめて叫ぶ王の言葉に、一人のドワーフが困ったように眉をしかめた。
    「でも、王様ー。資材が足りないラリ」
     だから無理ーというドワーフの言葉に、ジオット王は鼻を鳴らした。
    「えーい! ならば、戦車を潰せ、戦車を! もう、戦も起らん!!」
     元々、ドワーフ戦車隊はドワーフ達に伝えられていたバブイルの塔に異変が起こった時の為に編成されたものだ。
     伝承のとおり起こってしまった異変は、セシル達の尽力により、無事終結した。
     ならば、戦車ももう必要のないものだ。
     ジオットの命令に、ドワーフは飛び上がって戦車の方に駆けていく。その足取りが軽やかで楽しげなのは王の気のせいではないだろう。
     陽気なドワーフ達は、戦を好まない。戦車など、ない方がいい。
     そんなみんなの様子を見て笑いながら、ルカが屋上に現れ、ジオットの横に並ぶ。
    「父上! セシルさん達はどうしているかしらね?」
     一度降り立った地上を、可愛いひとり娘はいたく気に入ったらしい。
     いずれ、この国をルカに任せられれば……と考えてもいたのだけれど、もしかしたらそれは難しいかもしれない。
     ジオットは小さく笑う。
     それでもいい。今まで、ジオット達ドワーフの世界は地底だけだった。けれど、地上と地底が繋がり世界が広がった今、娘の可能性も大きく広がったのだ。
    「それなんじゃが、いい知らせじゃ! セシル殿とローザ殿がバロンの王と王妃になるそうじゃ!」
     その言葉に、ルカが目を丸くする。
    「まあ!」
    「ついてはわしらを戴冠式に招待したい、と知らせがきておる」
     そう言って、懐にしまっていた招待状をルカに見せると、ルカはその文面に視線を走らせ、顔をきらきらと輝かせた。
    「やったー!!」
     ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶ娘に目を細めたジオット王を見て、横を通りかかったドワーフが口を尖らせた。
    「あー、王様サボってるラリ〜」
     確かに作業の手が止まっていたことに間違いはない。ジオットは誤魔化すかのように大きく咳払いをした。
    「ええい! 戦車を潰せー!!」
    「「ラリホー!!」」
     そして、ドワーフ城に金槌の音と陽気な声が響き渡った。

     ミシディアの遥か東にそびえる、試練の山。その頂に、人影がひとつ佇んでいる。
     竜を模した鎧に身を包んだその男――カインは、ふと西の方向に視線を向けた。
    「……今日、か……」
     誰に聞かせるでもない小さな囁きは、風に溶けて消えていく。
     カインは兜を外すと、目を細めた。視線の先、地平線の向こうには、彼の故郷がある。
     そして、今日は彼の大切な人達の祝い事がある日だ。
     本来ならば、自分が一番に駆け付け、祝辞を述べるべきなのだろう。――だが。
    「セシル……ローザ……。今の俺にはお前達を祝福することは……出来ん」
     親友でありライバルであるセシル、そして幼馴染であり妹でありカインが一番愛する女性であるローザ。
     二人がとても大切で、だからこそ心から憎んだ。いや、今も憎しみは消え去ってはいないだろう。彼らを前にして、笑っておめでとうと言える自信は欠片もない。
     だから、彼らの戴冠式の前にバロンを発ったのだ。逃げた、といえばそうなのかもしれないが、憎しみ以上に彼らが大切で、これ以上彼らを傷つけたくなかった。今、カインが二人に出来ることは、距離を置くことだけだったのだ。
     ――けれど。
    「……この試練の山で技を磨き……父を越える竜騎士となった時には……。バロンに、戻れそうな気がする……」
     だから、それまでは――……。
     後半は言葉にならなかった。カインはぐっと手を握りしめて一度だけ目を閉じると、兜を装着し、跳躍した。――想いを、振り切るかのように。

     そして、アガルトの村にあるコリオ天文台。
     いつものように月の観測をしていた助手が、あっと声を上げて、上司であるコリオを呼ぶ。
     助手の尋常ではない様子に、コリオは怪訝な顔をしながら、近づいた。
    「どうした?」
    「大変です! 月が……」
     助手に代わって望遠鏡を覗き込んだコリオも、小さく息を呑んだ。
    望遠鏡から見える月が、ありえない変化をしていた。
    「――月が……遠ざかっていく……!」
     いつもと変わらぬはずの二つの月。その片方が、少しずつ青き星から離れていくのを、コリオは呆然と見守ることしか出来なかった。

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