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    FINAL FANTASY W 〜FINALE・1〜

     魔道士達の村、ミシディア。一時期村を占めていた緊張感は今は微塵もなく、のどかな時間が流れている。
     村の奥にある長老の館で、ミシディアの村の長老とポロムは真剣な面持ちで対峙していた。
    「……さて、今日の修行を始めようか」
    「はい!」
     そこで、長老はポロムの真横を見て、眉をしかめた。そこにいるはずの、もう一人の魔道士の姿はない。
    「……パロムは、どうした?」
    「さては、また……!」
     顔を怒りに染めてそう呟いたポロムは、捕まえてきます! と宣言すると、だかだかと足音を立てて駆け出していく。
     その光景を見て長老は呆れたように息をついて、こめかみをもんだ。
     あの旅で一回りも二回りも成長したように思っていた幼い魔道士だが、日常に戻ってみれば実は何も変わっていなかったのかもしれない。そんな風に思わせるほど、いつも通りの光景だった。
     そんな事態になっているとも知らずに、ミシディアの村の近くにある池のほとりで、パロムは一人の少女相手にセシル達との旅の様子を意気揚々と語っていた。少女が、頬を紅潮させ目を輝かせてパロムの話を聞いてくれるので、パロムとしても話していて楽しい。
    「……んで、その時だ! おいらが得意のブリザトで試練の山の……!」
    「見つけたっ! パロムー!!」
     パロムの言葉に被せるように、ポロムの声が響く。パロムの顔色がざっと青ざめた。
    「げっ! ポロムッ……!」
     ものすごい勢いで駆け寄ってきたポロムは、ぽかりとパロムの頭を拳で殴った。
    「いってーっ!!」
    「またあんたは修行をさぼってっ!! いい加減にしなさい! 長老がカンカンよっ!!」
     ポロムはそう言うと問答無用とばかりにパロムの腕を掴んで引きずって連れて行く。それをぽかんと見つめていた少女は、しばらくして小さくくすくすと笑い、ふたりの魔道士が去った方向を見る。その瞳には強い羨望の色が宿っていた。
     そして、長老の館。
    「何度言ったら分かるんじゃ!!」
     先ほどまで少女の羨望の眼差しを受けていたパロムは、長老からの拳骨を受けて、がっくりと肩を落としていた。
    「そんなことでテラを目指すなど、十年早いわっ! 罰として呪文の書き取りじゃ!!」
     実践は得意だが勉強は苦手なパロムは、思いっきり眉をしかめた。
    「えー!?」
     そんなパロムを呆れたように見ていたポロムは、つんと顔をそむける。
    「自業自得よ!」
     そんなふたりの様子を見て、長老はこっそりと小さく笑う。
     穏やかで平和な日常。長老がずっと待ち望んでいた時間だった。

     ミシディアから遠く、エブラーナの城。ここでも、一人の老人の怒鳴り声が響いていた。それを、この国の王位継承者であるエッジは、王座に座って聞いている。
     けれど、その表情は心ここにあらずといった状態だ。とてもお説教を聞くような態度ではない。
     エッジを叱っていた家老は、肩を落として大きく息をついた。
    「……そもそも、若には王位継承者としての自覚が足りんのです!」
     さすがにそれは言われたくなかったのか、エッジは眉間に大きな皺を刻む。
    「分かってるって!」
    「分かっておられたら、毎日娘どもの尻など追いかけずにですなっ!」
     エッジの反論に家老はきっと眦を上げる。何だか変な所に火をつけてしまったらしい。エッジは小さく息をついた。
    「あー、はいはい」
    「返事は一度で結構っ!!」
     エッジは玉座から立ち上がると、家老の横を過ぎて数歩進む。
     あの旅からこの国に戻って。あの戦いで大きな被害を受けたこの国も、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。復興作業も本格的に始まり、しばらくは忙しい日々が続くだろう。そして、ある程度色々なことに目途が立てばエッジは正式に即位することになる。
     やらなければならないこと。自分に課せられた責任。全部、分かっている。少しでも早く王となり、この国をよりよい国にしていきたい。そんな思いもある。
     充実している日々。けれど、何か物足りない。心の隙間を埋めようと、以前のように女性を追いかけてみたりもしたけれど、それも虚しさを増すだけだった。
    「……でもよ、リディア。……こっちの世界に、おめーよりいい女はいねーよ」
     そうして、エッジは足元に視線を落とした。本当なら空を仰ぎたい所だけれど、彼女のいる世界は空の彼方ではなく、この地面の奥深く。
    「若!」
     何を語るでもなく歩き出したエッジに、家老は声を張り上げたのだった。

     幻界の町にある、幻界図書館。そこで幻獣の子どもと遊んでいたリディアは、ふと顔を上げた。
     いつものおちゃらけた声ではなく真剣な声音で、名前を呼ばれたような気がした。
     彼がこの場にいるはずがないのだから、気のせいだ。けれど、何だか気になる。あの青年はどうしているだろう。明るくて、誰にでも気軽に接するのに大事なことはひとりで抱え込むような人だから、心配だ。
     人柄故に彼を支えてくれる人はたくさんいるから、リディアの心配など無用なのだろうけれど。
     考えこむリディアを見つつ、幻獣王は目を細めた。
    「しかし、大した娘だ」
    「本当に。……それにしても、まさか、ここに帰って来るとは……」
     複雑そうにアスラが呟く。娘のように思っているリディアが戻ってきたことは嬉しいけれど、人間である彼女をいつまでもここに留めていいものかと憂慮している。
     リディアと一緒に遊んでいた幻獣の子どもは、ふとリディアを見上げるとリディアの服の袖を引いた。
    「……ねえ、リディア。なんで僕には牙があるの? 僕もリディアと一緒がいいなぁ」
     その言葉に、リディアは視線を落として柔らかく笑う。そして幻獣の子どもの頭を柔らかく撫でた。
    「何言ってるの。人間も幻獣も一緒よ」
     どういう意味かと首を傾げる子どもに、リディアは爽やかに笑う。
     言い切ったリディアに、アスラもまた目を細めた。色々と懸念はあるけれど、リディアが何も考えてないとは思えない。あの娘を信じてみよう、そう思った。
    「……これからの幻界が楽しみですね」
    「何しろ、美人じゃしな!」
     リディアは立ち上がると、空を見上げた。
    「……大事なのは、心。……そうでしょ? セシル」
     そうして、リディアは柔らかく微笑んだ。

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