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    FINAL FANTASY W 〜砂漠の光・7〜


     ギルバートの案内を受けながら、セシル達は慎重に洞窟の中を進む。
     気を張りながら歩いていたセシルは、小さく目を見開くと、右腕をすっと挙げ、リディアとギルバートに注意を促す。
     殺気だ。
     セシルは剣を抜きつつ、相手を視界に捉えた。アダマンタイマイという巨大な亀の魔物だ。セシルの知っている魔物だった。弱点は、冷気。
    「リディア! ブリザト!」
    「うんっ! 凍てつく風よ、彼の者を包み込め! ブリザト!!」
     即座に反応したリディアの魔法が、アダマンタイマイの動きを鈍らせる。地下水脈を一緒に乗り越えたことで、セシルとリディアの息はばっちりと合っていた。セシルは一呼吸で魔物に詰め寄ると、甲羅と胴体の境目を一気に貫いた。
     ぽかんとそれを見守っていたギルバートは、我に返ってぽつりと呟く。
    「すごい……セシルって強いんだね。リディアも……。びっくりしたよ。僕は、戦闘では役に立てないから……。ごめんね」
     情けなさそうな自嘲気味の笑みを浮かべるギルバートに、リディアが手を伸ばす。
     小さな、けれど温かな体温に、ギルバートは驚いたように目を見開いた。リディアがふわりと笑う。
    「ギルバートには、きれいな音楽があるでしょ。それって……心を守ってるのかなって思うの」
     その言葉に、セシルとギルバートは同時に息を呑んだ。
    「……こころ」
     うん、とリディアが小さく頷く。
    「ギルバートの音楽、まだ悲しいのしか聴いたことがないけど……。悲しいけど、とってもきれいだったから。ギルバートの音はどんな曲でもきっときれいだと思ったの。……だからね、ギルバート。あたし、ギルバートを守るから。だから、今度音楽を聴かせてね?」
     リディアの言葉に、ギルバートは心からの柔らかな笑みを浮かべた。
    「喜んで。……そうだ。今度一緒に演奏してみる?」
    「ほんとに!? 楽しそう〜! あ、でもあたし楽器なんにもできないよ?」
    「僕が教えてあげる。僕の音に合わせて歌うのもいいんじゃないかなぁ?」
    「うんっ。えへへ、楽しみ〜」
     そう言って頬を染めて笑う少女は歳相応に見えて。セシルはこの気丈で優しい少女がまだ七歳だという現実を思い知らされた気がした。
     まだ、七歳。親や周囲の大人に甘えて、守られている年頃なのに。
     それを奪ったのは誰でもない。自分自身だ。その罪滅ぼしとして今の自分に出来ることといえば、リディアを守ることぐらいしか思いつかなくて。
     そんな自分が腹立たしくもあった。

     洞窟の最奥。そこに、ギルバートの言葉通り、アントリオンの洞窟はあった。
     セシル達が近付くと巣穴から鋭い角を覗かせる。そのすぐ隣に光り輝く何かがあった。砂漠の光だ。
    「きゃあっ!?」
    「大丈夫だよ、リディア。アントリオンは大人しい魔物なんだ。人に危害は加えないよ。……僕が砂漠の光を取ってこよう。待っていてくれ」
     リディアの頭を優しく撫でたギルバートが、アントリオンに近付く。その時、セシルの背筋にぞわりと悪寒が走った。
    「引けっ! ギルバート!!」
     己の直感にしたがってギルバートの細い腕を後ろから掴んで引っ張ると、ギルバートは体勢を崩しながら後ろに数歩下がった。同時にアントリオンの鋭い角が、今までギルバートがいた場所を貫く。
    「そんな!?」
     大人しいはずのアントリオンの攻撃行動に、ギルバートは動揺を隠せない。
    「いくぞ! リディア!!」
    「うんっ!!」
     リディアが先程宝箱から手に入れたアイスロッドを振りかざすと、彼女の魔力に反応して封じられた冷気が開放された。アントリオンの周囲を冷気がまとう。その冷気を縫うように、アントリオンの角がリディアに向かって発射された。
     セシルはその間に割ってはいると、角を剣で叩き落した。そこに。
    「……チョコボ!!」
     リディアの召喚魔法が発動し、チョコボがアントリオンに強力な蹴りを放つ。それに反撃するかのようにアントリオンが二度三度と角を発射させた。
    「くっ! ……これじゃ攻撃に移れない!」
     角を全て盾で防いだセシルは唇を噛み締めた。リディアも責めあぐねて困ったような顔になる。それを見ていたギルバートの指が、竪琴に触れた。それは魔力を秘めた竪琴で、弾き手の腕によって様々な効果をもたらすという。
     ギルバートはすっと息を吸い、気持ちを落ち着けると、弦を弾いた。そして、美しい旋律を紡ぎだす。
     穏やかな、優しい音色。子守歌だ。
    「いまだ、セシル……! アントリオンをっ」
     音楽に聴き入りかけていたセシルははっと我に返り、アントリオンを見た。アントリオンの注意は完全にギルバートの音色に向いている。セシルは剣を両手に持ち替えると、大上段に構えた。
    「はあっ!!」
     裂帛の気合と共に放たれた一撃は、アントリオンをあっさりと沈めていた。セシルは息をつきながら足元に輝く砂漠の光を拾い上げる。
    「何で……大人しいはずのアントリオンが……」
    「分からない。最近の魔物の凶暴化と関係あるのかな……」
     悲しそうに竪琴の弦から指を離すギルバートに、セシルは首を横に振る。
    「ねぇ、セシル。今は早く戻ろう? ローザが心配だよ」
     考え込み始めた大人二人を、リディアが見上げる。セシルとギルバートは顔を上げると頷いて洞窟を後にしたのだった。

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