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    FINAL FANTASY W 〜砂漠の光・6〜


    「ア、アンナァ……。ううう……」
     ギルバートは泣きながら、リュートを奏で始めた。深い悲しみに満ちた鎮魂歌が廃墟と化した城に美しく響く。
     そのまま泣き続けるギルバートに、セシルは拳を強く握り締めた。
     このままではいけない。アンナの死が無駄になるだけだ。テラのように復讐に走れとは言わないけれど、彼はこのまま、アンナと運命を共にするつもりのなのだと分かってしまった。
    「……っ」
    「弱虫!」
     セシルが言葉を発する前に口を開いたのは、この城に入ってから一言も発していないリディアだった。その小さな手が、腰布をぎゅうっと握り締めている。
    「お兄ちゃんは男でしょ! 大人でしょ! なのに……! あたしだって……」
     微かに潤んだ翡翠の瞳が、まっすぐにギルバートを射抜く。
     セシルは小さく唇を噛んだ。
    「……リディア」
     ギルバートが涙を拭わないまま小さく笑う。全てを諦めたような笑みだった。
    「そうさ……。君の言うとおり、僕は泣き虫さ……。だから、ずっとこうして、アンナの傍にいるんだ……。もう、何もかも……どうでもいいんだ」
     絶望を口にするギルバートの胸倉を、セシルは掴み上げた。
    「ふざけるなっ! アンナさんが命懸けで守った命だぞ!? 君はそれを捨てるつもりか!? アンナさんを愛してるというなら、彼女が救ってくれた命に恥じるようなことはするんじゃない!」
     ギルバートが息を呑む。珍しいセシルの激昂に、リディアが瞳を瞬かせた。
    「悲しいのは君だけじゃないんだ! それに……今の君がただ傍にいたって……アンナさんは喜びはしないよ、きっと」
     ギルバートは目を見開いて、安らかな表情で眠る恋人の顔を見た。セシルは胸倉を掴んでいた手を離すと、ギルバートの青い瞳をみつめ、用件を切り出す。
     こんな時に頼むことではないと、分かっている。この状態のギルバートにとって酷だろうということも。それでも、ローザの命を諦めたくなかったし、何よりギルバートの意識を別の箇所に向けることも必要がある。
     絶望に駆られたダムシアンの王子に、生きる意味を。
    「……それに……僕達には君の助けが必要なんだ」
    「僕が……君達を、助ける?」
     呆然と繰り返すギルバートの瞳に、微かな光が灯ったのを、セシルは見て取った。
    「僕はセシル。この子はリディアだ。……カイポで高熱病に倒れた仲間を助けるため、砂漠の光が必要なんだ。それには……君の助けがいる」
    「僕の……助け……。僕が、助ける……」
    「そうだ。……ローザのために、頼む……!」
     セシルの言葉に、ギルバートの瞳に光が戻る。
    「ローザという人は……君の大切な人らしいね。……愛する人を失っては、いけない」
     ギルバートは一度だけ目を閉じ、天井を仰いだ。そして、視線をセシルに戻すと力強く、頷く。
    「砂漠の光は、ここから東にある洞窟に住むアントリオンが産卵の時に出す分泌物からできる。洞窟には、浅瀬を渡らなければ行けないんだ。ダムシアンにあるホバー船なら、浅瀬を越えられる。カイポへも西の浅瀬を越えて行ける。……行こう」
    「……ありがとう」
     深く頭を下げるセシルに、ギルバートは首を横に振り、愛しい女性に視線を落とした。
    「……さようなら、アンナ……」

    「すっごーーい! 水の上を走ってる!!」
     初めて乗るホバー船に、リディアははしゃいでいた。
    「わわっ!? リディア、端に寄ると危ない!」
    「だいじょうぶだよ〜。うわぁ、すごいすごいっ!」
     事後の事を生き残った者に託してホバー船の舵を取るギルバートは、セシルとリディアのやり取りに笑みを零し、そして笑えたことに、少なからず驚いた。
    「でも、本当にすごいなぁ。……空気で浮いているんだよね?」
     若干不満そうなリディアを抱きかかえたセシルの言葉に、ギルバートは吹き出しそうになるのを堪えて頷く。
    「そう。空気圧で浮いてるんだ。……もうすぐ着くよ」
     そして、ホバー船を洞窟の前に着ける。
    「ここがアントリオンの洞窟だよ」
     ギルバートはそう言いながら、リディアを抱き上げて地面に降ろす。リディアは洞窟を見つめて、首を傾げた。
    「えっと……ここで砂漠の光が取れるのよね?」
    「うん。さあ、行こう。アントリオンは洞窟の最深部にいる」
     そうして洞窟に入ったところで、セシルは足元を見つめてぽつりと呟いた。
    「砂の洞窟か……」
    「アントリオンは砂の中に巣を作るんだ。今はアントリオンの産卵の時期だから、奥の巣まで行けば簡単に砂漠の光が手に入るはずだ。……タイミングよかったね」
    「……えーっと。奥まで行けば砂漠の光は手に入るってことだよね?」
     首を傾げるリディアに、ギルバートは優しく微笑んで、頷いた。
    「そっか! よかったね、セシル!」
     嬉しそうに笑うリディアに頷き、セシル達は最深部へと向かって歩き出す。魔物の気配がするから、気を抜くことは出来ない。ギルバートがどの程度戦えるのかは分からないが、このメンバーで前線に立てるのはセシルだけだ。
     セシルは改めて気を引き締めたのだった。

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