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    FINAL FANTASY W 〜懺悔と決意・7〜

     月に降りるにあたって道具の最終確認をしていたエッジの背後の扉が、微かな音とともに開く。
     そこから現れた気配はエッジにとって既によく馴染んだもので、振り返らなくとも誰がそこにいるのか分かった。
    「……エッジ。あの。怒ってる……?」
     背後からかかったその声は、予想通りリディアのものだ。エッジは道具袋の口を締めながら、振り返らずに答える。
    「怒ってねぇよ」
    「嘘。さっきも目を逸らしたし……今だって、こっちを見てくれないじゃない」
     その言葉に、エッジは小さく息をつくと、後ろを振り返った。翡翠色の瞳が、まっすぐにエッジを見つめている。
    「怒ってねぇって」
     もう一度そう言ったが、リディアは信じていないようだ。彼女の瞳がそう物語っている。
     エッジは小さく苦笑して、リディアのふわふわの頭を撫でた。
    「だから、怒ってねぇって」
     エッジの瞳を覗き込むように見ていたリディアが、小さく頷く。エッジの言葉を信じてくれたらしい。
    「ねえ、エッジ。……聞いていい?」
    「あ? 何を?」
    「さっき……どうして、あんな風に言ったの? あたしじゃ、頼りないから?」
    「……は?」
     リディアの言葉に、エッジは目を丸くする。
    「さっき、言ったじゃない。ガキはいい子でお留守番してなって。……あたしがガキで、弱くて、頼りないから……あんなこと、言ったんじゃないかって、思って……」
     やや俯き加減にリディアがそう言う。その言葉で、エッジは先ほどの言葉がリディアを傷つけてしまったのだということに気付いた。
     エッジとしてはもちろん、そんな意図など全くなかった。リディアを弱いとか頼りないとか、そんな風に思ったことなど一度もない。
    「……そういう意味で言ったんじゃねぇよ」
    「でも……」
     まだ俯いたままのリディアに、エッジは小さく息をついた。自分の真意を話すとなると、かなり情けない話になる。けれど、このままではリディアは俯いたままだ。
    「お前が弱いとか、そんなんじゃねぇんだよ。……情けねぇ話だけどよ。……自信がなかった」
     視線を逸らし、頬を掻きつつそう言うと、リディアが俯いていた顔を上げて不思議そうに瞬いた。
    「自信……? え? エッジが?」
     その反応に、彼女の中の自分のイメージはどんなのなのかと聞いてみたくなったが、自信家だよねとあっさり言われそうな気もする。まあ、それも間違ってはいない。自分の実力には自信があるし、意図してそう見えるように振舞ってもきた。
     だが、今回だけはそう出来なかった。
     あのゴルベーザすら簡単に操ってしまうゼムスが弱いわけがない。この先は今まで以上に厳しい戦いになると分かっていた。
     そんな戦いの中で、果たして自分はリディアを守れるだろうか。その自信が、まったくなかった。
     だから、リディアに留守番していろと言ったのだ。そうすれば、リディアは怒って出ていくだろうと、そう思ったから。
     そんな言葉がリディアを傷つけることになるとは思いもしなかったのだけれど。
     ぽつぽつとそんな情けない内容を語っていく。その話を聞いていたリディアの表情がきょとんとしたものから、どんどんと怒ったような表情に変わっていった。
    「エッジの馬鹿!」
    「うお!?」
     先程も聞いた気がするセリフに、エッジは思わずのけ反る。
    「何でそんな風に思うの!? あたし、守ってもらいたいから着いて行くんじゃない!」
     それはそうかもしれない。リディアを守りたいと願うのは、エッジのエゴだ。
    「あたしだって、あの星を……エッジを守りたい! それに、もし三人だけでゼムスのところに行ったら……残ったあたしとローザはどんな気持ちで待てばいいの? あんなところで放り出されて、エッジは大丈夫かな、無事かなってずっと不安な思いをして……それで、もし、エッジ達が負けちゃったら……。あたしとローザだけじゃ、きっとゼムスは止められない。みんな、死んじゃう……。エッジはそれでいいの!?」
     やや話がまとまっていないのは、怒りながら思いつくままに話をしているせいだろう。
     それが何だかリディアらしい気がして、エッジは苦笑する。
    「……よくねぇな」
    「でしょ!? あたしだってよくないよ! ……あれ?」
     そこまで行っていきなり我に返ったのか、リディアはひょこんと首を傾げた。
    「ええっと……何を言いたかったんだろう?」
     困ったような表情のリディアは、すでに俯いても落ち込んだ表情をしてもいない。そのことに、エッジは安堵した。
    「いや、伝わった。何となく」
     そう言うと、リディアは不思議そうに瞬く。あたしは分からないのに、エッジは分かったの? とでも問いたそうな瞳だ。
    「……そう? あのね、エッジ。上手く言えないかもしれないけど……。あたし、思うの。お互いがお互いを守りたいって思って、そのために一生懸命戦えば、きっと大丈夫なんじゃないかって。……だから」
     リディアはふわりと笑って、両手を差し出す。言葉を、心を、エッジに渡すかのように。
    「だから、頑張ろう? 一緒に」
     エッジは小さく笑った。
     リディアはいつも、こうやってあっさりとエッジの心を変えていく。それが、どれだけ大変なことか、リディアにはきっと分からないだろう。
     本当に、敵わない。
    「……そうだな。……リディア」
    「ん?」
     差し出された両手を握りしめ、エッジは呟く。
    「おめぇは、俺が守る」
     その言葉に、リディアは満面の笑みを浮かべたのだった。

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