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    FINAL FANTASY W 〜懺悔と決意・6〜

     時は、僅かに遡る。
     リディアは魔導船から降りると、目尻を手の甲でごしごしと拭った。
     涙が出るのは、悲しいからではない。悔しいからだ。
    「ガキって何よ……。エッジのバカ!」
     そう叫んでみたものの、子ども扱いをされたことよりも、足手まといのように扱われたことの方が悔しいのだと、自分でも分かっている。
     他の仲間達と比べれば、リディアは頼りないかもしれない。けれど、リディアがエッジの強さを信頼して背中を預けているように、エッジもリディアの事を信じてくれているのだと、そう思っていたのに。
     リディアに、背中を預けるだけの信頼がおけない。そう、切り捨てられたような気がした。
     そういえば、先に魔導船の外に出たローザはどこにいるのだろう。
     そう思って顔を上げたリディアは、ローザが魔導船の倉庫に繋がる出入口に向っているのに気付いて、数度瞬いた。
    「……ローザ?」
     その呼びかけに、ローザは艶やかに笑う。
    「さあ、行きましょう。リディア」
    「えっ」
     そして、ローザはリディアの腕をひくと、魔導船内に戻った。扉が閉まると同時に、微かなエンジン音とともに魔導船が浮かび上がる。
    「……ここからコックピットまでは通路を挟んでいるから、たぶんセシル達には気付かれないと思うわ」
    「え、うん」
     何と答えていいのか分からず曖昧に頷くリディアに、ローザは小さく苦笑した。
    「セシルが、ああいうのも分かるの。……ゼムスは恐ろしいわ。いくら憎しみに駆られていたとはいえ、青き星にいたゴルベーザを操れるほどの力を持っているのだもの。……本当に、死んでしまうかもしれない」
     その言葉に、リディアは頷く。
    「……うん」
    「そんな危険な場所に近づけたくないのよ。セシルも……エッジも。でも、いくらセシルの願いがわたしが安全な場所にいることでも……わたしは叶えてあげられない」
    「……ローザ」
    「だって、わたしはあの人の傍にいたいんだもの。あの人の隣に立って、ともに戦って……あの人を守りたい。力になりたいんだもの」
     リディアは、小さく俯いた。
    「……でも、ローザ。……エッジは……」
    「リディア。エッジがあなたに何を言ったのかは分からないわ。けれど、彼と向き合ってちゃんと聞いてみないと、真意なんて分からないでしょう?」
    「……うん」
     その時、低い振動が床から伝わってきた。月にたどり着いたのだ。
    「わたしは行くわ。リディア、あなたは……」
    「あたしも……あたしも行く!」
     きっぱりと答えたリディアに、ローザは綺麗に微笑むと、魔導船の外へと飛び出したのだった。

     出入口を塞ぐかのように立つ人影に、セシルは掠れた声で呼びかけた。
    「ローザ……」
     ローザが立ち塞がっている出入口は、このコックピットの部分から直接外に出れる唯一の出入口だが、魔導船には他にも出入りできる箇所がいくつかある。外に出てすぐ、他の出入口に潜んでいたのだろう。
     そう思いつつ、セシルはローザに睨み付けるような険しい視線を向ける。
     だが、ローザは微動だにしなかった。凪いだ表情をぴくりともさせず、ただじっとセシルを見つめている。
     その姿は、まるで見事な彫刻のようですらあった。
    「……そこを退くんだ」
     低いセシルの声に、ローザは首を横に振る。
    「嫌よ! ……わたしを連れて行ってくれないのなら、ここは退かないわ!」
    「何を……!」
     眉をしかめるセシルを、ローザの瞳がまっすぐに射抜く。
    「あなたの傍にいられるのなら、どうなっても……! いいえ、あなたと一緒なら、どんな危険だって……!」
    「……ローザ……」
     ローザの言葉に、エッジが小さく口笛を吹いた。
    「それに、わたしがいなくなったら回復は誰がするというの?」
     その言葉には、セシルは返す言葉もない。セシルの白魔法がローザに適うわけがない。
     そして、普段は慎み深く控えめなローザが、激情にかられると後先考えない行動に出ることがあることは、セシルも十分に分かっていた。
     もしここで置いて行っても、ローザはセシルを追いかけていくだろう。生死不明のセシルを探して単身でカイポまでやって来た、あの時のように。
     カインが小さく苦笑して、セシルの肩をぽんと叩く。
    「……仕方がないな、セシル」
    「うらやましいねぇ」
     エッジがからかうような口調で、そんなことを言う。セシルは一度だけ目を閉じた後、ローザをまっすぐ見て、頷いた。
    「……分かったよ、ローザ……。僕が……守ってみせる!」
     セシルの力強い言葉に、ローザの表情がぱあっと輝いた。そして。
    「うまくいったね!」
     弾んだ声とともに、出入口に現れた翡翠の瞳の少女の姿に、エッジがくっと目を見開いた。
    「おめー!」
    「……あたしも行く。幻獣達だって、セシルの力になりたいって、あの星を守るために戦いたいって、そう言ってる」
    「……幻獣達が……?」
     うんと、頷いたリディアは、まっすぐな視線をセシルと、エッジに向けた。
    「それに……いつか言ったでしょ? あたしは、ファブールで戦うって決めたって」
     リディアの真剣な、そして固い決意を秘めた視線を受けて、セシルは頷き、エッジは軽く目を逸らした。
    「リディア……分かったよ。行こう、僕らの戦いに」

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