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    FINAL FANTASY W 〜力合わせて・1〜

     巨人が一歩踏み出すごとに、地表が大きく割れる。そして両手から放たれた光線が大地を抉り、木々を吹き飛ばす。画面いっぱいに映る破壊された光景に、セシルは息を呑み、ローザの顔色が青ざめる。
    「これが……!」
    「ひどい! こんなの……!」
     泣きそうに顔を歪めるリディアの隣で、エッジが画面を睨み付けている。
    「ちくしょう! 遅かったかっ!」
     エッジの表情は険しく、奥歯を噛みしめる音がここまで聞こえてきそうだ。
    「何とか……何とかなんねーのかよ!? じーさんっ」
     だが、フースーヤは表情を曇らせて顔を横に振った。
    「動き出してしまっては……。私にも、どうにも……」
    「そんな……」
     この星を守ると、そう決めたのに。巨人の力はあまりに大きく、セシル達になす術はない。己の無力さに俯く。
     その時だ。セシルの耳が、馴染み深いエンジン音を捉える。
     どういった仕組みなのかほぼ無音で飛行することができるこの船のエンジン音ではない。目の前の画面からその音がするのだと気付いたセシルは顔を上げる。
     同時に爆撃音が船内に響く。そして、巨人が動きを止めた。
    「……砲、撃?」
     呆然と呟いたセシルの横で、ローザが画面の一点を指し示した。
    「セシル! あそこ!!」
     そうして画面に映し出された光景に、その場にいる全員の目が丸くなった。

     エブラーナの大地を、戦車隊が土埃を巻き上げながら駆ける。その砲座はまっすぐ巨人に向けられている。どこかに拡声器でも取り付けられているのだろう。ありえない音量で、声が響き渡る。
    「ドワーフ戦車隊、見参!! 母なる大地のため、我々も戦う!!」
    「「「ラリホー!!」」」
     ドワーフの国の王・ジオットの勇ましい声とそれに応じるドワーフの兵士達の声だ。
     そして、次にセシル達の耳に届いたのは。
    「セシル殿! 遅くなってすまぬ!!」
     地底のシルフ達の洞窟で安静にしているはずの、ヤンの声だった。
    「ヤン! 無理しちゃダメよ!」
     そして、シルフ達のか細い声も聞こえた。どうやらヤンが心配でついてきてしまったらしい。
    「私だけ寝ているわけにもいくまい!!」
     その声は未だ重傷を負っているとは思えないほどの覇気に満ちている。セシルには、不敵なヤンの見えが見えたような気がした。

     そして、青い空をいくつもの船影が翔ける。バロンが有する飛空艇団・赤き翼だ。
    「セシル! ローザ!! わしが来たからにはもう心配いらんからなーっ!!」
     甲板に、ドワーフ城にいるはずのシドの姿がある。画面に大きく映し出されたシドの姿を見る限り、元気そうだ。
     シドは弟子達を振り返ると、声を張り上げる。
    「エンジン全開じゃあっ! バロンの……いや、人間の雄姿をあのでかぶつに見せつけてやれぃっ!!」
    「「はいっ!!」」
     その声に応じるように、飛空艇がさらに加速する。
    「あんちゃーんっ!」
    「セシル様ーっ!」
     戦場に響く幼い二つの声に、セシルは肩を震わせた。
     そのセシルの心に呼応するように、画面の映像が移動し、ひとつの飛空艇を映し出す。その飛空艇にはミシディアの魔道士達と長老、そして幼い双子の魔道士の姿があった。
    「ひっさしぶりだなー!」
    「長老に助けていただきましたの!」
     バロン城で石化したはずのパロムはぴょんっと跳ねてみせ、その横でポロムがにっこりと微笑む。
     そしてミシディアの長老が、飛空艇の甲板から巨人を睨み付け、年に似合わぬ張りのある声で言った。
    「この戦いはそなたたちだけではない! この大地に生きとし生けるもの全ての、命の戦いじゃ!!」
     その声に応じるように、美しい竪琴の音色が響いた。人々を鼓舞し励ます、戦いのための音色だ。
     そんな音色を出せる人間を、セシルは彼以外知らない。
     ギルバートは音楽を最後まで弾ききると、そっと竪琴を足元に置き、右手を胸に添えた。
    「セシル。君達に教わった勇気……見てくれ!」
     そう言って優しく微笑んだギルバートは、その美しい声を張り上げた。
    「戦車隊および飛空艇団、攻撃開始!! 目標は、巨人!! 僕達の大地を守るんだ!!」

    「……みんな!」
     それ以上、言葉にならなかった。
     確かに一人一人の力は、巨大な力の前には無力だけれど。それでも、大丈夫だと思えるのは、一人で戦っているわけではないからだ。
     それを、この旅で出会った仲間達が証明してくれた。
    「巨人が……戸惑っているわ!」
     ローザの言葉と同時に、フースーヤが目を細めた。
    「今のうちに巨人の内部に入る」
     その言葉に、エッジがにやりと笑った。
    「なーるほど! 内部から心臓部を叩くってぇわけか!」
     動き出してしまった巨人を止めるには、それしか方法がないだろう。そして、巨人の内部に潜入するタイミングは、今しかない。
    「シド! 頼む!!」
     セシルの叫びに、飛空艇が一艇魔導船に近づいてくる。
     魔導船から飛空艇に乗り込むと、フースーヤがシドに目を向け、巨人の口元を指さして言った。
    「奴の口に近づくのだ!」
     見慣れぬ老人に、シドは眉をしかめる。
    「誰じゃ!?」
    「月の民、フースーヤ」
     短いフースーヤの名乗りに、シドの眉間のしわがさらに深くなった。だが、フースーヤはそれを気にする様子は全くなく、短くシドに尋ねる。
    「出来るか?」
    「わしを誰だと思ってるんじゃい! 飛空艇のシドじゃぞ! 楽勝じゃい!! しっかり掴まっとれよ!!」
     そうして飛空艇はさらに加速し、巨人の口に向って突っ込んでいったのだった。

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