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    FINAL FANTASY W 〜導くもの・1〜

     ミシディアに着いたセシル達を、祈りの塔に入っているはずの長老が出迎えた。まるでセシル達が今日、この時間に訪れることを予期していたかのようだった。
     そして、一行は長老に伴われてミシディアの最奥にある長老の館に併設された祈りの塔を登る。
    「セシル殿には一度お話しましたかな」
     道すがら、長老が口を開く。そして、その口から朗々と紡がれたのは、地底でも聞いたあの伝承だ。

     竜の口よりうまれしもの
     空高く舞い上がり
     闇と光を掲げ
     眠りの地にさらなる約束をもたらさん
     月は果てしなき光に包まれ
     母なる大地に大いなる恵みと慈悲を与えん

    「……それって、魔道船の伝承なんだろ? どういう意味なんだ?」
     エッジの問いかけに、長老は首を横に振った。
    「分からぬ。しかしミシディアの民はこの伝承の成就のために祈りを捧げよと言われておる……。そして、聖なる光を持つ者を信じよ、と……」
     そうしてちらりとセシルに視線を向けた。聖なる光を持つ者、とはつまり聖騎士のことだろう。
     長い階段の上の方から低い祈りの声が微かに聞こえる。最上階に出ると、数十人の魔道士達が懸命に祈りを捧げていた。
     その中央に、長老がゆっくりと進むと、両手を広げて天に掲げた。
    「祈るのじゃ! 皆の者! 伝説が真の光となるのは今をおいて他にない!」
     祈りの声が大きく、力強くなる。同時に、その場に立っていると身がすくむほどの魔力を感じた。
     それを見たローザとリディアが指を組んで、目を閉じた。セシルとエッジは思わず顔を見合わせた。セシルは俯いて目を閉じ、エッジはエブラーナ式の祈りなのだろう。ぱんぱんと両手を合わせている。
     不意に、波の音が大きくなった。セシルは思わず目を開ける。そうして目に入ったのは、ミシディアの南西側にある入海の中央が大きく渦を巻いている光景だった。
    「おお……! 我らが祈り、通じたぞ……!」
     感極まったような長老の声を聞きながら、セシルが渦の中央から黒い物体が浮かび上がってくるのを呆然と眺めていた。そして、伝説の最初の一文を理解する。
     竜の口よりうまれしもの、の竜の口とはミシディアの大地のことだったのだ。確かにこの大地は竜の頭のような形をしており、ちょうど内海が口の部分になっている。
    「あれこそが……大いなる眩き船、魔道船……!」
     それは飛空艇とは全く異なる印象の、鯨のような形をした黒い船だった。
    「あれが……魔道船。すげぇ……」
     エッジの呟きにセシルは黙ったまま頷いた。
    「……セシル殿。今、声が聞こえたのだ。月に参れ、と……。月にそなたを待っている者がいる」
     目を閉じて天を仰いでいた長老が厳かに告げる。その内容に、セシルは困惑の声を上げた。
    「月へ、ですか……? でも、誰が……? それに、どうやって……?」
    「何者かはわしにも分からぬ。だが、月へ向かう方法に関しては案ずることはない。魔導船は月からの船。文献によれば飛翔のクリスタルの他にもう一つクリスタルがあり、それに念じる事で月へと行けるらしい」
    「クリスタルで……。分かりました」
    「じゃが、月では何があるか分からぬし、魔道船も長らく海の底深くで眠っていたもの……整備も必要じゃろう。……少しばかり、時間をいただいてもよろしいか?」
     セシルは長老に向き直ると、深々と頭を下げる。
    「……よろしくお願いします」
     それを聞いていたリディアはしばし考えこんだ後、小さく首を傾げつつ、長老に尋ねる。
    「あの、長老様。それって、どれくらい時間がかかりますか?」
    「少なくとも、半日ほどはかかると思うが……」
     長老の答えを得たリディアは、満面の笑みで振り返った。
    「ねえ、じゃあファブールに行こうよ! ヤンが生きてたこと、ヤンの奥さんに伝えなくちゃ!」
     ヤンがバブイルの塔で巨大砲の爆発に巻き込まれたと話した時の、ヤンの奥さんの気丈さを保ちながらも憔悴した様子を思い出しながら、セシルは頷いた。ヤンを目覚めさせる方法は未だ分からずじまいだが、それでも生きているならば希望が持てる。
     ここからファブールとの往復なら、半日ほどで済むはずだ。
    「よっし、ファブールだな!? そうと決まれば急ごうぜっ!!」
     エッジが元気よく声を上げる。そうして再び、ファルコンが大空に舞い上がる。
     そうして向かったファブールでヤンの現状を伝えると、バロンの兵士さえものしたというフライパンを手渡され、「これであの人を起こしてやっておくれ!」と頼まれて困惑することになるのだが、それはまた別のお話である。

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