朝早くにドワーフの城を発ったセシル達は、ファルコンで以前は地上と地底を結ぶ大穴が開いていた場所まで来ていた。
「……ここでいいんだよな?」
エッジがファルコンの舵を執りながらセシルを振り返る。エッジはここに大穴が開いていたことを知らないから無理もない。セシルはこくんと頷いた。
「ああ、ここだよ。……エッジ、頼む」
「まっかせとけって! 全員、掴まってろよ! いっくぜ〜!!」
楽しげなエッジの声とともに、ファルコンの船首に装着されたドリルが回転を始めた。そして、固い岩盤をドリルで砕きながら、少しずつ上昇していく。
「っしゃ! 突破ぁ!!」
エッジが拳を振り上げると同時に、ファルコンは自らが開けた穴から、青い空の下へと飛び出していた。降り注ぐ太陽の光に、セシルは無意識にほっと息を吐いていた。地底も悪いところではないが、やはり日の光があると安心するし、何ともいえない開放感がある。
「やったぁ! ファルコンすごい! シドのおじちゃんすご〜い!」
リディアがぴょんぴょんと甲板で飛び跳ねる。久々に見る太陽が嬉しかったのか、いつもよりはしゃいでいるように見える。
「やっぱり、お日様の光っていいよね〜。ねっ、ローザ!」
「ふふ、そうね」
明るいリディアの笑顔に、ローザが柔らかく微笑む。沈みがちなセシル達を少しでも明るくしようとリディアは明るく振舞っているのかもしれない。そんな風に思うのも、決して的外れな考えではないだろう。
ファルコンを旋回させ地上を見下ろしたエッジが、そこに見える島を見て声を上げる。
「ここは……アガルトか!?」
「ああ。ミシディアに飛んでくれ!」
「了解! 北東方向だったよな!?」
エッジは言うが早いか、北東方向に船首を向けるべく舵を切る。ここからミシディアまでなら、このファルコンでならば一時間ちょっと飛行すれば着くだろう。
「竜の口よりうまれしもの、かぁ……。ミシディアにそんな大きな竜がいるのかなぁ?」
舵を取るエッジの横に近づいてきたリディアが、そう言って首を傾げる。エッジはさぁなと肩を竦めた。
「あの伝承を聞いてる感じじゃ、竜の口よりうまれしものってのがが魔導船ってことだろ? 船が口から出てくるってことか? そんな馬鹿でかい竜がいるのかね? そもそも、魔導船自体が謎だしなぁ」
「そうだよね。船ってつくくらいだから乗り物なんだよね? どんなのなんだろう?」
エッジとリディアのそんな他愛のない会話を聞きながら、セシルは目を閉じる。
「……セシル? どうかした?」
ローザの柔らかな声にゆっくりと目を開くと、セシルは淡く微笑んだ。
「うん。……ミシディアからすべては始まったんだなぁと思って」
そう。ミシディアにあった水のクリスタル。クリスタル強奪の命を受け、バロンを発ったあの日からこの旅は始まった。そうして、パラディンになったのも、あの地。よくよくミシディアとは縁のある旅である。
セシルの言葉に、ローザは目を細めた。
「……そうね。ミシディアは、あなたにとって感慨深い場所になるわね」
「……ああ」
セシルは静かに頷く。甲板をゆっくりと歩いて船首部分に向うと、頬に当たる風に目を細めた。ミシディアの長老からも聞いた、あの伝説が何を意味するのか。あの地で何が待ち受けているのか。
水平線しか見えなかった視線の先に、微かに見える地平線を見つけたセシルはゆっくりと目を閉じた。ミシディアは、もうすぐだ。