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    FINAL FANTASY W 〜二度目の悪夢・5〜

    「ふっふっふっ……。どんなもんじゃい! これで地上に戻れるじゃろ!」
     自慢げに鼻を鳴らすシドに、セシルは大きく頷いた。
    「ああ、ありがとう! シド!!」
     セシルの素直な感謝の言葉に豪快に笑ったシドの身体がぐらりと傾ぐ。ローザとリディアが悲鳴を上げた。
    「シド!!」
     叫ぶセシルを押しのけて、ドワーフの看護師がシドに駆け寄る。そうしてシドを担架に乗せるとそのまま医務室に運ぶこととなった。そうしてベッドに寝かされたシドは意識はあるものの顔からは血の気が引いていた。
    「シド……」
    「もう老いぼれの出る幕はなさそうじゃの……。ワシに出来るのは飛空艇をいじることくらいじゃ……」
     そう言って、シドは小さく苦笑した後、視線をエッジに向けた。
    「……セシルとローザを、任せたぞ」
    「わぁーかってるって! 任せときな!」
     エッジはにかっと笑うと親指を立ててみせる。それを見て安心したのか、シドは目を閉じると豪快ないびきをかき始めた。
    「……ありがとう、シド」
     呟いたセシルは勢いよく立ち上がると、そっと医務室を後にした。
    「よぉし! それじゃあ――」
    「ちょい待ち!」
     医務室を出た途端意気込むセシルを、エッジが遮る。
    「セシル。おめー、今自分がどんな顔色してっか分かってんのか?」
    「……え?」
    「それに俺達、封印の洞窟で一回休んでから一度も休憩してねーんだぞ?」
     エッジの言葉にセシルははっとして女性陣を振り返った。ローザやリディアの顔には隠しきれない疲労の色が浮かんで見える。
    「急いては事を仕損じるとか、腹が減っては戦は出来ぬとか言うだろ? あれ、バロンの方じゃいわねーのか?」
     エッジの言葉にセシルは苦笑を浮かべ、右手で額を覆った。
    「いや、言うよ。兵法の基本だ」
    「だろ? さすがの俺様も疲れたし、これから先、何があるかわからねーだろ?」
    「そうだね。休める時に休んでおいた方がいい。……今日はここで休もう」
     セシルの言葉に、ローザとリディアがほっとした顔で頷く。その様子に、セシルは焦って我を失っていたことを反省した。
    「エッジ……すまない。ありがとう」
     その言葉にエッジは手をひらひら振ると、苦笑とともにいいってことよ、と返したのだった。

     ドワーフの城の客間のひとつ。そこにあるベッドに腰掛けて目を閉じていたセシルは、控えめなノックに目を開いた。
    「セシル? 私よ。……入ってもいいかしら?」
     予想通りのローザの声に、セシルはゆっくりと顔を上げる。
    「うん、どうぞ」
     きいっと軽い音を立てて戸が開く。そうして入ってきたローザの手にはお盆が抱えられている。
    「久しぶりにお茶を淹れてみたの。一杯どうかしらと思って」
     セシルが落ち込んだ時、いつも彼女はお茶を淹れてくれる。その温かさがセシルの荒れた心に染み込み、幾度となく癒してくれた。セシルは淡い笑みを浮かべた。
    「ありがとう。いい香りだね」
    「地上にはない茶葉だから、うまく淹れられているか自信がないのだけど……」
     そう言いながら、お盆をテーブルに置き、手際よくカップを準備するとポットからお茶を注ぐ。そんなローザの動作さえも、繊細で美しい。
     室内に、お茶の香りがふわりと漂う。
     セシルはカップを受け取り、口を付けた。独特な風味があるが、嫌いな味ではない。
    「おいしいよ」
    「そう、よかった」
     そう言って微笑むローザの笑みがすぐに陰りを見せた。
    「ねぇ、セシル。どうしてカインが……カインばかりが、ゴルベーザの術に……」
     目を伏せるローザをセシルは困ったように見つめた。最初はセシルにも分からなかった。けれどこうして一人落ち着いて考えることで、カインが再びゴルベーザの術中に落ちた理由に、ようやく想像がついた。
     セシルや他の仲間からローザにそれを伝えることは可能だ。だが、そうして傷つくのはローザとカインだと分かっている。
     セシルには、言えなかった。
    「……僕の、せいだ。カインは色々なことを心のうちに抱えていた。僕はそれを知っていたし、想像することだって出来たのに……。見ないふりをしていたんだ。今までの関係が心地よかったから。見ないふりをしてれば、ずっとこのままでいられるんだと思っていたから……」
     カインの心情には触れていないもののこれも事実だ。セシルはゾットの塔でカインの胸の内を知っていたのに、そのことに一度も触れないまま、ここまで来てしまった。逃げていたのだ。
    「本当は……向き合わなきゃいけなかった。カインと本音をぶつけて、真正面から話さなきゃいけなかった。……それが出来なかったから、カインは苦しんで……こんなことになってしまったんだと思う」
    「セシル……」
     セシルの悲痛な声に、ローザが眉をきゅっと寄せる。
    「でも……。でもね、ローザ。僕はそれでもカインのことを諦めたくないんだ……って言ったら君はどう思う? いつまでも諦めきれない、情けない男だと思うかい?」
    「馬鹿ね、そんなこと思うわけないじゃない。大切なものを手放したくないと思うのは、当然のことだわ。私だって、カインのこと諦めたくないもの。……そして、あなたが諦めないというのなら、私はそのために力を尽くすわ。私、そのためにここいいるのだもの」
     そう言ってローザは艶やかな笑みを浮かべる。その美しい微笑に惹かれるように、セシルはローザを抱き寄せた。
     心の中で、この場にいない親友に詫びながら。
     すまない、カイン。それでも僕は、このぬくもりを手放すことは出来ないんだ。

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