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    FINAL FANTASY W 〜想いの行方・6〜

    「エッジ!」
     リディアが振り返ると、ローザの治療を受けていたエッジはリディアに大丈夫だと言うように手を振った。
     かなりの勢いで飛ばされたように見えたけれど、重傷ではないらしいことはローザがかけている白魔法がケアルラであることからも明らかだ。
     リディアはほっと肩を撫でおろした。
    「リディア」
    「王妃様!」
     呼びかけられ、リディアは王妃に向き直る。王妃は穏やかに微笑んだ。
    「いいお友達を持ちましたね。……いつでも、私を呼びなさい。あなたの力になりましょう」
    「はい! ありがとうございます!!」
     顔を輝かせるリディアに、王妃は小さく頷いて見せた。
    「……そして、あなたがたか幻獣王に会うことを許可します。……が」
     首を傾げるリディアに、王妃は小さく苦笑した。
    「あなたもお友達もお疲れの様子。今日はもう休んで、明日になさい」
    「……あ」
     改めて自分の姿を見ると、お世辞にもきれいとは言えない状態だ。
    「そうですね。また明日来ます!」
     そう言って頭を下げるリディアを、王妃の傍らにいる老人が面白そうに眺めていた。

    「エッジ、身体の具合はどう?」
     幻界の宿屋で。ローザがエッジに声をかけると、エッジはにかっと笑った。
    「お〜、好調好調! 絶好調! ローザ様々だな〜」
     おどけた調子でそう言うエッジに、ローザは苦笑した。
     彼は出会ってからずっとこんな調子だ。日常でも戦闘中でも軽口をたたき、おどけてみせる。そんなエッジの本質を見たとローザが感じたのは、二回。一回目はバブイルの塔へと続く洞窟でルビカンテと一人対峙していた時。そして二回目は、バブイルの塔でエッジの両親が亡くなった時。
     だが、エッジのその本質はすぐに隠れてしまう。バブイルの塔で援護に駆け付けた自国民の前ではすでにおどけてみせたのだから。
     軽くおどけてみせるエッジが嘘とは思わないけれど、仮面の一部ではないのかと思ってしまうのは、確かだ。
    「なら、良かったわ」
    「んで、どーしたよ? まさかローザが回復魔法の状態確認するためだけに来たわけじゃねーだろ? 何かあったのか?」
     エッジは大雑把なように見えて実は細かい配慮に長けている。意外と統治者に向いているのかもしれないと、ローザは少しだけ失礼なことを考えながら、微笑んだ。
    「あら、心配しちゃいけなかったかしら?」
    「いんや? 美人に心配されて嬉しくない男なんていねーぜ?」
     エッジがそう言って目を細める。セシルやカインなら絶対言わなさそうな言葉だ。しかも、そう言うエッジの表情は色気があるのだから並みの女性ならばあっさりと彼に落ちているだろう、とセシル一筋のローザは冷静に思った。
    「褒められて悪い気はしないけれどね。……ちょっと、確認しておこうかと思って」
     ローザは少しだけ間をおいて、用件を切り出した。
    「あなた……そんな調子であの子を口説きにかかってるんじゃないでしょうね!?」
     あの子が誰を指しているかわからないほど、エッジは鈍くはないはずである。目の前のエッジがびしりと硬直した。
    「なっ!? いきなり何言って……!」
     まさかそんな話だとは思ってもみなかったらしく、エッジは見事に動転している。
    「本気かどうかの確認よ!」
    「……何でバレてんだよ……」
     げんなりと呟くエッジに、ローザは目を細めた。
    「あら、バレてないとでも思ったの? あなたの目、リディアを見てる時だけ違うもの。分かるわよ」
     そう言うとエッジは視線をそらして何事かぶつぶつと呟きだした。カインのことは鈍いくせに、と言ったような気がしてローザは眉をしかめる。
    「何か言うならはっきり言ってくれないかしら? 何で、カインが出てくるの?」
    「……。ナンデモナイデス」
     珍しく歯切れの悪い様子のエッジにローザは首を傾げるが、それはひとまず置いておくことにした。本題は、ローザが妹のように思うリディアのことだ。
    「……で、どうなのよ」
    「……何でローザがそこまで気にすんだよ……。あいつだってそこまでガキじゃねーだろ」
     その問いかけに、ローザは思わず目を伏せた。そう、自分達は確かにリディアを子ども扱いしすぎているのだろうという自覚はある。
     けれど、大人扱いをしようと思ってもどうしても数か月前の幼いリディアの姿が脳裏を過るのだ。そして同じ世界で時を刻んでいればまだ幼い少女なのだと思い、どうしても必要以上にリディアを子ども扱いしてしまう。
    「まあ、確かにあいつ世間知らずっぽいとこあるけどよ。……でも、他に何かあんだろ?」
     問いかけというよりは確認に近いその言葉の響きに、ローザは思わず息を呑んでいた。
     どこまでかは分からないけれど、エッジはリディアの過去を知っているのだろう。ローザの表情を見てエッジは小さくやっぱりな、と呟いたがそれ以上追及をしてはこなかった。
    「……あの子も色々と背負っているのよ」
     そう言うとエッジはだろうなと小さく頷いた。それ以上話を発展させようとしないところを見ると、ローザにリディアの過去を聞くような悪趣味なことをする気はないのだろう。
    「それに、リディアは私の『妹』だから」
     結局のところ、ローザがリディアに過保護になってしまう一番の理由はこれかもしれない。
     そう思いながらローザはにっこりと微笑む。
    「だからね、エッジ。……もしあの子を泣かせたら……私とセシルとカインが黙ってないわよ?」
     艶やかな笑みにエッジの顔色が青ざめる。分かってるわね、と念を押すとエッジは黙ったままこくこくと首を縦に振ったのだった。

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