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    FINAL FANTASY W 〜想いの行方・5〜

    「みんな、ここよ。ここに幻獣王様と王妃様がいらっしゃるの」
     リディアが案内したのは、あらゆる知識の宝庫といわれる幻界の図書館だ。この図書館の地下に王妃がいる。彼女の許しなくして幻獣王に会うことは出来ないのだ。
    「……すごい蔵書の数だわ……」
     ローザが思わず感嘆の声を上げた。部屋の壁のすべてが本棚になっており、そこには隙間なく本が詰まっている。
     幻獣に関しての考察本や魔法に関する書物。人に近い姿を持つ幻獣のラムウが人間界で集めた書物など、様々な書物がここにはある。
    「リディア。ここの本はあとで私が見ても構わないかしら?」
     興味を抑えきれないのだろう。頬を紅潮させ尋ねるローザに、リディアはもちろんと頷いた。
     ローザがやや本棚に後ろ髪をひかれつつも、一行はそのまま地下への階段を下りる。その先に広がっていたのは図書館とは雰囲気の全く異なる広間だった。
     その部屋の中央には初老の男性と、青い髪の美し女性が佇んでいる。リディアの姿を認めると、女性が柔らかく目を細めた。
    「リディア」
    「王妃様! お久しぶりです!」
     呼びかけられたリディアが駆け寄ると、王妃は柔らかな笑みを浮かべた。
    「本当に。元気そうでなによりです、リディア。……後ろの方はお友達ね」
     セシル達を眺めて頷いた王妃は、真剣な表情になってリディアを見た。
    「さて、リディア。……あなたの言いたいことは分かっていますよ。……私の力を求めているのですね?」
     その言葉にリディアも笑みを消すと真剣な表情で頷いた。
    「はい! ……お願い、力を貸してください! あなたの力が必要なの!」
    「貸しましょう、と言いたいところですが……。あなたがたの力を見極めなくてはなりません。それが幻界の掟。……私に挑む勇気と力がありますか?」
     リディアがどうしようと悩むように視線を泳がせる。こんな急な展開は予想していなかったらしい。目に見えて焦るリディアの横に、エッジが立った。
    「……俺達が手ぇ貸したって文句ねーよな?」
    「私はあなたがたの力を見極めたい、と言いました。絆も人の力でしょう? もちろん、構いません」
     王妃が艶やかに微笑む。その言葉に、セシルは剣を抜きカインも槍を構えた。ローザも身構え、エッジが忍刀をひゅんと鳴らす。全員が戦闘体制を整えている。
    「エッジ……。みんな……!」
    「……リディア、もう一度問います。……私に挑む勇気と力がありますか?」
     リディアもまた低く身構えると、力強く頷いた。
    「はい! みんながいるから、あたしは負けません!」
    「ならばその力……私に示しなさい!」
     瞬間、王妃の身体が強い光を放った。リディアがそっとその名を口にする。
    「幻獣、アスラ……!」
     王妃の姿が三つの顔に六本の腕を持つ幻獣へと変わる。
    「緩やかなる時よ! その流れに汝が身を委ねたまえ! スロウ!」
    「命を蝕む不浄の風よ! バイオ!!」
     ローザのスロウがアスラの時の流れを緩やかにし、リディアのバイオが命を削る。アスラのみっつある顔のうち、穏やかな顔ものがリディア達の方に向いた。
    「ケアルダ!」
     詠唱もなしに、アスラが白魔法を放つ。
    「何だぁ!?」
     エッジが声を上げながらも、刀を構えてアスラに切りかかった。しかし、その素早い一撃はあっさりとアスラに受け止められてしまう。エッジは小さく舌打ちすると、後ろに飛びのいた。
     そこに、カインがジャンプで勢いをつけつつ攻撃を仕掛ける。その瞬間、アスラの顔が怒りの表情に変わる。
    「プロテス!」
     防御力向上の白魔法である。カインの攻撃は当たるにはあたったが、効果のほどは薄そうだ。
    「……厄介だな」
     カインの言葉に、セシルが頷いた。
     確かに厄介だ。バイオは効いているが削れる体力には限界があるし、アスラにはケアルダがある。このままではアスラの体力を削りきる前にこちらが力尽きてしまうだろう。
     リディアは、ふと視線を上げてアスラを見据えた。そしてローザを見る。思い出したのは、昔この図書館で見た本の一節。
    「……アスラ。幻獣王への最大の難関。彼女の力を利用した者だけが、彼女に打ち勝つことが出来るだろう……」
     その小さな呟きに、全員がリディアを見た。セシルがあっと小さく声を上げ、リディアがこくんと頷く。
    「ローザ! アスラにリフレクかけて!」
    「分かったわ!」
    「カイン! エッジ! 僕らは時間を稼ぐぞ!」
    「ああ!」
    「あいよ〜」
     セシルは剣の切っ先をアスラに向けた。
    「よし! 行くぞ!!」
     その掛け声と同時にエッジが強く地面を蹴り、高く飛んだ。そして空中から手裏剣を放つ。それを縫うように走るカインが槍を突き出した。
    「魔を反射する鏡よ、彼の者を守りたまえ! リフレク!」
     ローザが放つリフレクがアスラにかかる。そこにセシルが剣を上段から振り下ろした。渾身の一撃に、さすがに大きな衝撃を受けたらしいアスラは、反射的に顔を慈愛の表情へと変える。
    「ケアルダ!」
     だが、アスラの傷が回復することはない。アスラにかかったリフレクが回復魔法を反射し、アスラの近くにいたカインにかかった。
    「我、リディアの名に於いて命ず! 来たれ、清廉なる者。穢れなき純白の白竜よ」
     アスラが剣を振り上げる。その攻撃の先にいるのは、召喚魔法を唱えるリディアだ。
    「させっかよ!」
     その剣の先にエッジが割り込んだ。忍刀を交差させ、アスラの攻撃を全身で受ける。
    「っ!?」
     しかし、その攻撃は思った以上に重かったらしい。アスラは刀ごとエッジを吹き飛ばした。
    「――っ!?」
     思わずエッジの名を呼びそうになったリディアだが、ぐっと息を呑みこんでこらえた。ここで詠唱を無駄にしたら、それこそエッジに申し訳ないのだと分かっているからだ。
    「……汝の輝ける息吹にてすべての災厄を吹き払いたまえ! 我が呼び声に応えて出でよ……!」
     そして、リディアの召喚魔法が完成する。
    「霧の化身――ドラゴン!!」
     ドラゴンのレイディアントブレスがアスラを吹き飛ばす。そして、幻獣・アスラの姿がその場から掻き消えたのだった。

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