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    FINAL FANTASY W 〜想いの行方・3〜

    「……おい、洞窟の奥に小屋があるぜ〜」
     洞窟の最奥。そんな場所に小屋があるとは思ってもみなかったのだろう、エッジが目を丸くして声を上げた。
    「本当だ……こんな洞窟の奥に……!」  セシルもまた驚きを隠せず、瞳を瞬かせる。その横で、リディアが目を細めた。
    「……声、ここから聞こえる……。間違いないよ!」
    「ここから? ……何がいるのかしら……」
     ローザが頬に手を当てて、首を傾げる。ローザが「誰」ではなく「何」と表現した気持ちが、セシルには分かる気がした。
     地底の環境では人間が生活することは難しいから、少なくとも家主は人間ではないだろう。かといって、陽気なドワーフ達がこんな洞窟の奥深くで生活しているとも思えなかった。
     リディアが警戒していないところを見ると邪悪なものではないのだろうけれど、用心するに越したことはない。
     セシルは戸に手をかけて、仲間達を振り返る。そうして仲間達が頷いたのを確認すると、手に力を込めて戸を開けた。そうして、その先にいたのは。
    「きゃっ!? 人間!?」
     か細い女性の声に、セシルは再び目を丸くする。幼い頃ローザと一緒に読んだ絵本の挿絵にあるような妖精の姿がそこにあった。
    「よ、妖精さん!?」
    「違うよ〜。シルフ、だよね?」
     即座のリディアの否定に、セシルは何だか恥ずかしくなった。
    「そうよ。……あなた、召喚士ね」
     召喚士であるリディアの存在のせいか、警戒心丸出しだったシルフの態度が少しだけ和らぐ。
    「そう、リディアっていうの。よろしくね」
     にっこりと笑うリディアをシルフはじっと見つめると、つと視線を部屋の奥に向けた。その視線を追うと、部屋の隅にベッドが置いてあるのが見えた。布団が膨らんでいるから、誰かが眠っているのだろうけれど、セシル達の位置からは誰が眠っているのかまでは見えない。
    「……どうしたの?」
     シルフの何か言いたげな気配を感じとってリディアは首を傾げる。シルフはややためらったあと、口を開いた。
    「あの……人間なら、分かるかと思って……」
    「何を?」
     リディアの問いに、シルフの表情が泣きそうに歪む。
    「ひどい怪我をして、洞窟の前に倒れていたの。一生懸命看病して、怪我はもう大丈夫なのに……目を、覚まさないのっ……!」
    「目を、覚まさない?」
     反芻しつつベッドに近づいたリディアの動きが、止まった。リディアが小さく息を呑む音が室内に響く。その後のリディアの小さな叫びに、セシルも我が耳を疑った。
    「……っヤン!」
    「えっ!?」
     セシルは反射的に駆け出していた。そのあとにローザやカインも続く。
     ベッドを覗き込むと、確かに傷を丁寧に手当てされたモンク僧が静かに眠っていた。
    「ヤン……! 生きていてくれたのか!」
    「……ファブールの……モンク僧?」
     唯一ヤンと面識のないエッジが小さく呟く。セシルは小さく頷いた。
    「ああ。……ともに戦った仲間なんだ。……ドワーフ達を救うために、巨大砲の爆発に巻き込まれたのだけれど……」
    「ローザ! ヤンを目覚めさせる方法はないの?」
     泣きそうな顔で尋ねるリディアに、しかしローザは首を横に振った。
     白魔道士が治療できるのは怪我だけだ。意識を失った者を目覚めさせる魔法はない。
     けれど、生きていれば希望がある。ヤンが生きていることを知れただけでも、収穫は大きい。
    「……人間なら分かると思ったのに……」
    「うん、ごめんね。でも、どうすればヤンが起きてくれるのか、ちゃんと考えてみるから……」
     うなだれるシルフに声をかけるリディアを見て、リディアが聞いた声はシルフのヤンを助けたいという切なる願いを聞いたのだろうと、セシルは思った。

     シルフの小屋の奥にある魔法陣に触れると、一瞬で洞窟の外へと移動した。脱出用の魔法陣らしい。
     リディアが名残惜しそうに洞窟を振り返る。
     自分もリディアのような表情をしているのだろうか。カインはふとそんなことを思った。
     ヤンを目覚めさせたいと、カインも思う。だが、どうすればいいのだろう。この中の誰も目覚めさせる手立てを持っていないのだ。
     ふとカインの脳裏にヤンの奥さんの顔が浮かんだ。あの人ならばヤンを目覚めさせることが出来るのではないか。何の根拠もないが、そう思う。
     だがあの人は今ファブールにいる。現段階で地上に戻る手段のないカイン達に結局打つ手はないのだ。
     そう思ってファルコンに戻ろうと振り返ったカインは、己の視界に飛び込んできた光景に固まった。
     目を細め、シルフの洞窟をやはり名残惜しげに見るセシルに寄り添うローザ。
     その光景に胸がきしむように痛み、そして胸を痛ませた自分自身に嫌悪する。自分は、まだこんなにも捕らわれているのだと思うと情けない。
     唇を噛みしめていたカインがふと視線を感じて顔を上げると、リディアとエッジがカインを見ていた。リディアは心配そうな顔で、エッジは何かを納得したような顔で。
    「……カイン」
     何を言えばいいのか分からないのだろう。リディアはカインの名を呼んだきり、口を噤んでしまう。カインは小さく苦笑した。
     同じ感情をこの少女は乗り越えて前に進んでいるというのに、自分はいつまで同じ場所に立ち止まっているつもりなのだろう。
     自分だけがいつまでも動けずにいる。そんな気がする。
    「……大変だよなぁ。おめーもよ」
     こくこくと頷き、カインの肩を気安く叩いてそんなことを言うエッジ。この王子が、実は色々と周りを見ていることに、無論カインは気付いている。この掴みどころのない男には、カインが抱いている想いなど筒抜けなのだろう。
     そう分かったうえで、口を開く。
    「分かったような口をきくな。オウジサマ」
    「だからその呼び方やめろっつの、あほ竜騎士」
    「じゃあ、バカサマ」
    「さりげなくバカサマ言うな。ざけんな、バカイン」
     やりとりのレベルが物凄い低次元だということは置いておいて。
     このやり取りに気付いたセシルが、小さく笑う。
    「……仲良いねぇ」
    「「どこがだ!」」
     カインとエッジの声が見事に重なった。それに、リディアやローザも笑い出す。
     カインはエッジから不機嫌に視線をそらしながら、彼の存在に、感謝してやらなくもない、と思った。彼の存在で、救われている部分があるというのは、認めざるを得ない事実だ。
     面と向かって言うことは絶対にないけれど。
    「……くだらん。さっさと進むぞ」
     ため息と共に言った言葉に、全員がはーいと返事をする。
     何だか保護者にでもなったみたいだとカインは苦笑を浮かべた。

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