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    FINAL FANTASY W 〜想いの行方・1〜

    「……やっぱり、呼んでる……。ここからだったのね……!」
     ドワーフの城よりマグマの海を隔てて北西の方角。その大陸にある洞窟の中に入ったリディアが、ぽつりと呟いた。
     封印の洞窟に行く前に彼らがこの洞窟に寄ったのは、リディアの訴えがあったからだ。
     呼ばれている気がする、と。
     リディアの言葉に、セシルは迷った。こうしている今も、ゴルベーザは封印の洞窟に強引に入ろうとしているかもしれないからだ。
     そのことが分からないリディアではないが、それでも呼ばれている場所に行くことを譲ろうとしなかった。行かなくてならないような気がするのだと言う。そうして、リディアはセシルを驚愕させるセリフを放った。
     何なら、自分を連れて行ってくれるだけでいい。一人でもそこへ行く。その間にセシル達は封印の洞窟へ向かえばいい。あとから自分も追いつくから、と。
     危険が多い場所で、リディア一人を残しておけるはずがない。リディアを心配するあまり、戦闘がおざなりになることなど、目に見えている。
     強力な黒魔法や召喚魔法の使い手であるリディアが抜けると、戦力的に痛いというのもあるが。
     それに黒魔道士のこういった感覚というのは馬鹿に出来ないものだあるのだ。無碍に無視するわけにもいかない。結局カインの。
    「皆で行って、さっさと用事を済ませればいいだろう。結果的にはその方が早そうだ。それにいくらゴルベーザといえども、封印の洞窟を破るのは容易いことではないだろう。そこまでやわな封印ではないはずだ」
     という発言で、活動方針は決まったのだった。
     そうして訪れたのはドワーフ達がシルフの洞窟と呼んでいる場所だった。その床を見たセシルは眉をしかめる。そこかしこに毒の沼があるのだ。セシルが背後のローザを振り返ると、ローザは心得たように頷いた。
    「我らを重力の楔より解き放て! ……レビテト!!」
     浮遊呪文によりセシル達の身体が宙に浮かび上がる。これで毒の沼の影響を受けずに進むことが出来る。
     目を閉じて耳を澄ませるようにしていたリディアがゆっくりと目を開けると、ひょこんと首を傾げた。
    「……何だろう……。怖がってる……? でも、呼んでる……」
     怖がっているのに呼んでいるとは矛盾しているような気がする。リディアを除くメンバーが顔は顔を見合わせた。唯一呼んでいる声が聞こえるリディアにも分からないのならば、声の聞こえないセシル達に分かるはずもない。
     それにその答えは、呼んでいる主の元まで行けば分かるはずである。
    「……よし、じゃあ行こう」
     セシルがそう言うと、仲間達がほぼ同時に頷く。
     気を引き締めていかなければならない。洞窟から漂う強い魔物の気配に、セシルは意を決すると洞窟の中を進み始めたのだった。

    「……ずっと呼ばれてる感じがすんのか?」
     リディアは曖昧に頷いた。
    「うーん……。呼ばれているっていうより、呼びかけているっていう方が近いのかも……助けてって……」
     近づくことで、その声ははっきりとリディアに届くようになっていた。
     洞窟に入ってから強く感じるのは異なる存在への拒否反応と、それでも助けてほしいという縋るような想い。
    「……ふーん?」
     エッジは何だかよく分かっていないような顔をした。だが、その顔が瞬時に引き締まる。昨晩目や耳がいいと言っていたエッジだが、その感性は確かに鋭いらしい。僅かな物音から魔物の接近を判断したようだ。
     リディアも低く身構える。同時に樹木の魔物が三匹現れる。マモンという名のその魔物を見て、セシルが叫んだ。
    「植物の魔物なら……弱点は、火だ!!」
     その言葉に、リディアは思わず動きを止めていた。
     脳裏に蘇る記憶がある。リディアにとっては遠い昔の記憶。昔の事なのに鮮明に覚えている過去。
     全てを赤く染め上げた炎。泣きながら縋った、暖かさを残した身体。赤が、すべてを呑みこんで。
    「リディア! 魔法を!!」
     カインの声にリディアは我に返る。何とか反応して呪文を唱えようとした瞬間。
    「危ねえ!!」
    「きゃああ!!」
     エッジに強い力で突き飛ばされた。エッジもその反動で後ろに下がる。
     今までリディアがいた場所を、バーサクという狂戦士化の白魔法で自身を強化したマモンの強力な一撃が抉っていた。
     体勢を崩したリディアを、ローザが慌てて支える。
     ちらりと横目でリディアの様子を伺ったエッジは、セシルに向き直るとちっちっと指を振った。
    「おいおい、セシルさんよ〜。炎攻撃がリディアの専売特許だと思ってもらっちゃ困るぜ? 見てなっ」
     おどけた調子でそう言うと、エッジの指が複雑に動く。
    「臨兵闘者皆陣列在前! ――火遁!!」
     エッジが忍刀を十字に払う。同時に炎の渦が巻き起こり、魔物の群れを一瞬で飲み込んだ。その光景をリディアは瞬くこともせず、見つめていた。
     リディアは不思議そうに首を傾げる。炎を見た瞬間、リディアの心を満たしたのは恐怖心ではなかったのだ。
     炎が怖くて魔法を使うことさえ躊躇したのに、エッジの放った炎には恐怖を感じなかった。敵を倒すための圧倒的な力を持ったはずの炎に、暖かささえ感じたような気がした。
     昨夜は部屋に灯った明かりさえ怖くて、火の届かない場所に逃げ出したというのに。
     様子のおかしいリディアを、ローザが心配そうな面持ちで覗き込んだ。
    「大丈夫? リディア。どこか怪我でもした?」
    「あ、うん。平気。大丈夫」
     我に返ってリディアは頷くと、どうよ俺様の華麗な忍術と言いつつセシル達に向って胸を張っているエッジの背を見つめて、目を細めた。
     なぜ今の炎に恐怖を抱かなかったのか。その答えは、すぐに分かったような気がした。今の炎はただ敵を攻撃するためだけに放たれた炎ではなかったからだ。
     エッジがリディアを守るために放った炎だったから。
     リディアはゆっくりと目を閉じる。
     炎は怖いと思っていた。すべてを飲み込んで、焼き尽くしてしまうから。けれど、恐ろしいのは炎だけではないはずだ。強い力は使い方を誤れば、全てを破滅に導いてしまう。それは炎だけではなく、氷も雷も同じだ。だから、力を行使するものは力への恐怖を忘れてはいけない。
     同時に、力は大切なものを守り、生きていくのに必要不可欠のものだということも覚えておかなければならないだろう。
     炎だってそうだ。温かい食事がとれるのも、寒い夜に凍えずにすむのも炎があってこそである。
     力は使う者の心次第で良くも悪くもなるものなのだ。怖がる必要なんて、なかった。リディアが間違えさえしなければいい。
     自分なりの答えにたどり着いたリディアは、目を開けると満足そうに頷く。
    「エッジ、ありがとう。助けてくれて……。もう、大丈夫」
     そう言ってエッジに微笑みかけると、エッジは一瞬だけ目を見張るようにし、口元に小さな笑みを浮かべたのだった。

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