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    FINAL FANTASY W 〜ふれあう心・1〜

     セシル達の目の前で、七つのクリスタルが輝いている。地上の光のクリスタルが四つ。そして地底世界の闇のクリスタルが三つだ。
     ようやくクリスタルをゴルベーザから奪還することが出来るのだ。
     クリスタルを目の前にして、逸る気持ちを抑えることなど出来るわけがない。セシルはクリスタルに向かって駆け出した。その後にローザとカインが続く。
     もうすぐクリスタルに手が届く、というところでエッジが声を上げた。
    「んん!? ちょい待ち!」
     その言葉にセシルが振り返った瞬間。彼ら五人が立っていた床がぽかんと抜けた。
    「えっ?」
     セシルは思わず足元を見る。突如消失した床のあった場所に広がるのは、底の見えない闇だけだ。咄嗟に出来た動作はそれだけだった。
    「えええええええっ!?」
     落とし穴という典型的かつ古典的な罠に嵌ったのだと気付いた時にはもう遅い。伸ばした手も虚しく空を掻き、セシル達は重力に従い落下していく。
     エッジが驚いて目を丸くしているリディアの腕を掴んで引き寄せると、あっさりと横抱きにした。
    「エ、エッジ!?」
    「口閉じてな! 舌、噛むぜ! あらよっと!」
     エッジは空中でくるんと一回転して体勢を整えると、軽い音とともに着地する。その身軽な様は、まるで猫のようだ。
     一方、竜騎士であり空中戦を得意とするカインもまた、ローザを引き寄せると己に掴まらせて着地する。さすがにエッジのように静かにというわけにはいかなかったが、それでも互いに怪我はない。
     そして、セシルはというと。
    「うわああああっ!」
     空中でバランスを取ろうと試みはするが、重い甲冑が災いしてそれは上手くいかず、思い切り背中から着地していた。
    「〜〜〜〜っ」
     痛さのあまり声も出せずに悶絶しているセシルの横で、エッジがリディアを床に降ろす。
    「ほい、大丈夫だったか?」
    「う、うん。ありがと、エッジ。……セシル、大丈夫? すごい音したよ」
    「だ、大丈夫……」
     何とか身を起こすセシルの後ろで、カインがエッジに視線を向けた。
    「エッジ、お前……今の罠に気付いていたのか?」
     その言葉に、セシルもエッジを見上げた。
    「いや、まあ。何となくなぁ。床踏んだ感覚がうっすい板踏んでるみたいな感じでよ。……悪ぃな。もちっと早く気付くべきだった」
     罰が悪そうにエッジが言う。こんな初歩的な罠を見抜けなかったことが、忍者である彼には悔しいのだろう。
     だが、気付かなかったのも無理はないとセシルは思う。
     今はいつもの調子を取り戻しているエッジだが、あの悲劇の直後なのだ。その平静さが表面上のものだけだとしても仕方がない。むしろ、表面上は綺麗に押し隠してしまうエッジは、凄いとすら思う。
     王族としての覚悟と、戦士としての自覚が彼の精神を保っているのだろう。
     それに非はセシルの方にこそあった。クリスタルを前にして、注意力が散漫になっていた自覚はある。
     セシルは立ち上がると天井を見上げた。自分達が落ちてきた穴は深く、この穴を登ることは不可能に近いだろう。
    「……どうするの? セシル」
     ローザが指示を仰ぐと同時に、仲間達の視線がセシルに集まる。セシルの決断は早かった。
    「ここにいても仕方がない。上に戻る方法を探すなり、脱出するなりしないと。……先に進もう!」
     全員が頷き、歩き出す。セシル達がいるフロアにある扉は前方の一つだけだ。調べてみると、一つ下のフロアに移動するための昇降機だった。
     クリスタルルームに戻る手立てはないものか。だが、あの部屋にセシル達がエブラーナの洞窟から侵入した以外の出入り口はなかったように思う。
     脱出するしかなさそうだと、セシルは小さく息をついたのだった。

     それは、フロアを三つほど降りた所にあった。よく見知った物を目にしたセシルは、驚きに目を見開いた。
    「これは……!」
    「敵の新型飛空艇?」
     カインが、セシルの言葉を継いで驚きの声を上げる。バブイルの塔の中にまさか飛空艇のドッグがあるとは、思ってもみなかった。エッジが目の前の飛空艇を見て小さく口笛を吹く。
    「お〜! これが飛空艇かぁ。間近で見るのは初めてだぜ! でっけ〜!!」
     そう言って飛空艇に近づくと、エッジはセシル達を振り返ってにかっと笑った。
    「なぁなぁ、この飛空艇で脱出しようぜ!」
     あっからかんとした突拍子もない提案に、エッジ以外の全員が目を丸くした。
    「でも、敵の飛空艇だよ?」
     不安そうな声を上げたのはリディアだ。
    「気にすんなって。こいつだって、ゴルベーザに使われるより俺達に使われた方がいいだろうしよ! ……よっと!」
     そう言ってエッジは躊躇することなく飛空艇に乗り込んでしまう。セシル達は苦笑を浮かべると、エッジに続いて飛空艇に乗り込んだ。エッジの言うことにも一理はあるのだ。
     エッジは甲板を歩くと舵をぽんぽんと叩いて、満足そうに頷いた。
    「気に入ったぜ! そーだなー……ファルコンってのはどうだ?」
     その発言に、リディアが呆れたような表情を浮かべる。
    「まったく!」
     リディアがそんな表情を浮かべるのは珍しい。セシルは驚きを隠せずにいた。そんなセシルをエッジが振り返る。
    「セシル! 操縦の仕方教えてくれ!」
    「えっ? ……ここを、こうして……」
    「こうだな? よっしゃ! ファルコン発進!!」
     バブイルの塔の飛空艇ドッグに、エンジン音が響く。そうして、ファルコンと名付けられた飛空艇は地底の空へと飛び立った。

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