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    FINAL FANTASY W 〜復讐の刃・8〜

     戦闘が終わってしばらくの間は、誰も動くことが出来なかった。
     静寂が辺りを包み込む中、最初に動いたのはエッジだった。ゆっくりと武器をしまい微かに俯くと、小さく口を開く。
    「……親父、おふくろ……。仇は、とったぜ……」
     感情の色の見えない静かなエッジの呟きを聞きながら、カインはゆっくりと目を伏せる。
     非業の死を遂げたエブラーナの王と王妃の魂の、安らかな眠りを祈る。
     エッジは俯いたまま顔を上げようとしない。エッジがどんな表情をしているのか、カイン達からは見えず、またどんな風に声をかければいいのかも分からない。深い沈黙が場を支配する。
     どうすればいいのだろうと、沈黙に耐えかねたカインとセシルが無言で視線を合わせた。その時だ。
    「若っ! 若ぁ〜〜〜〜っ!!」
     重苦しい沈黙を破ったのは、聞き覚えのある老人の声だった。エッジの肩が小さく跳ねる。
    「若っ! 助太刀に参りましたぞぉっ!!」
     意気込んで現れたのは、忍数人を引きつれたエブラーナの家老だ。エッジは勢いよく振り返ると、その瞳を瞬かせる。その表情にもまとう気配にも、陰りは見えない。
    「じい、みんな……」
    「さあ、ルビカンテはいずこにっ!?」
     気色ばんだ家老と辺りを見回す忍者達の様子に、エッジは小さく噴き出した。
    「もう、すんだぜ」
     その声の調子はいつものように軽い。先ほどの怒りも悲しみもまるでなかったかのようなエッジの態度に、カインは竜を模した兜の下で微かに目を見張った。
    「おお、さすが若!」
    「ふふん、あったりまえよって言いたいところだが……。こいつらのおかげだな」
     エッジが視線だけでカイン達を指し示す。家老がセシル達を見ると、納得したように頷いた。
    「おお! そなた達が!」
    「んで、気になったんだけどよ。……ゴルベーザっていうのは何者だ?」
    「バロンを乗っ取り、クリスタルを集めている奴よ」
     端的なローザの説明に、セシルが頷く。
    「僕達は何としてもそれを防がなければならないんだ」
     エッジの視線が一瞬だけ険しくなった。
    「……なるほどな。そいつがルビカンテの親玉ってわけか……。……よっし! 決めたぜ!!」
     エッジの言葉に、家老が目をむいた。その一言だけで、エッジのお目付け役である家老にはエッジの思考が分かったらしい。長い付き合いの賜物だろう。
    「若!? もしや彼らと一緒に行くとか言うつもりではないでしょうな!? いけませんぞ!! 若にはエブラーナ復興という使命が……!」
     大慌ての家老に、エッジは呆れた視線を向けた。
    「あーのーな〜? エブラーナだけじゃねぇ、世界の危機なんだぞ? それが解決しなきゃおちおち復興もしてられねーよ。……それに」
     エッジはすっと目を細めた。その瞳に、真剣な光が宿る。
    「俺は、ゴルベーザの野郎だけは許せねぇ。この手でぶん殴ってやる……!」
     エッジと家老が睨み合うことしばし。小さくため息をついて折れたのは、家老の方だった。
    「……分かりました。エブラーナのことはお任せください」
     その言葉に、エッジは小さく苦笑を浮かべる。
    「……わりぃな」
    「若のわがままには慣れておりますから」
     そんな風に言う家老の表情は、言葉とは裏腹にどこか誇らしい。そうして、家老はカイン達を見ると、丁寧に頭を下げた。
    「みなさま、若をお願いします。……若! 世界を頼みましたぞ!」
     その言葉にエッジは明るく応じた。
    「あいよ〜」
     そうして家老と忍者達がエブラーナへと戻っていくのを見届けると、エッジはカイン達を見てにかっと笑う。
    「んじゃま、ゴルベーザを倒しに行くとしようぜ!」
    「……ちがーう! クリスタルを取り返すの!」
     軽い調子で言うエッジに、リディアが腰に手を当てて言い返す。
     そんなエッジの様子を見て、カインは小さく息を吐いた。
     エッジ。ただの調子のいい男だとばかり思っていたが、どうやら見誤っていたらしい。エッジの中に王になる者としての覚悟を見た気がした。普段は単なる阿呆だが。
     張り切ってくぜーなどと言いながらエッジが先頭を切って歩き出す。それに続いて歩こうとするカインの耳に、リディアの微かな呟きが届いた。
    「……エッジ……。悲しい、はずなのに……」
     その言葉に、カインは目を細める。
     エブラーナ王と王妃の最期を、エッジは家老達に一言も話さなかった。それは恐らく、この悲劇を話しても誰のためにもならないという、エブラーナの後継としての判断だ。
     結果として、この悲劇を一人背負い込むことになっても。統治者とは、時にひどく孤独で、悲しい。
     リディアもその言葉を誰に聞かせるつもりもなかったのだろう。ただ、胸に秘めておくにはこの現実が辛かったのかもしれない。そのあとは何も言わず、ゆっくりと最後尾を歩いている。だから、カインもリディアの悲しそうな囁きを聞かなかったふりをすることにした。
     自分に、彼女が望む答えを返せるとは思えない。
     そして彼らは、フロアの奥に見える扉の中へと足を踏み入れたのだった。

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