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    FINAL FANTASY W 〜復讐の刃・7〜

    「「何っ!?」」
     弱点と思われた氷の魔法を自らに放ったルビカンテの行動に、セシルとカインが同時に息を呑む。
     その魔法で、ルビカンテが全身に負っていたはずの傷が回復したのだから、なおさらだ。
    「何が、どうなっている!?」
     カインの呆然とした呟きに、ルビカンテは小さく口の端を上げる。
    「教えるわけがあるまい!? ――火炎流!!」
     ルビカンテが炎の竜巻を放つ。咄嗟に仲間内でも一番体力の低いリディアを振り返ったエッジが見たのは、恐怖に凍りついたリディアの顔だった。
     それを目にとめた瞬きほどあとに、炎の渦がエッジ達を呑みこむ。それを息を止めて何とか耐えきる。先ほどセシルとローザが施した防御魔法がなければ、耐えきることは難しかったかもしれない。
    「清廉なる光、暖かき光よ! その聖なる祝福で、我らを癒したまえ!! ケアルダ!!」
     ローザが放つ癒しの光がエッジ達を包み込み、ルビカンテの火炎流で負った火傷を癒す。
     エッジは先ほど見たリディアの表情を気にかけながらも、忍刀を両手に構えて床を蹴った。反射的に戦闘行動が取れるように身体が慣らされている。ルビカンテがマントで身体を覆ったまま応戦してくる。
     エッジやセシル、カインの攻撃では決定打を打てない。やはりもう一度大技を決める必要がある。しかし、弱点と思われた氷属性で回復したルビカンテを見てしまうと、なかなか属性攻撃を放つことが出来ない。
     だが、何か仕掛けがあるはずだ。
     目を細めたエッジの脳裏に、戦闘に入る前のルビカンテの言葉が蘇る。
     ――……だが、我が炎のマントは凍てつく冷気すら受け付けぬぞ。
     効いたはずの氷属性の召喚魔法。閉ざされたマント。そして、吸収された氷。
     エッジは覆面の下で小さく笑みを浮かべると、大きく飛び退った。そうして、リディアの隣に着地する。
    「……エッジ」
     リディアが呟いた。その声に覇気がない。そのことに気付いて、エッジは微かに眉をしかめた。戦闘に集中しているセシルやカイン、ローザにはリディアの声は届かない。気を抜けば死に直結する場面だから、当然と言えば当然だが。
    「よう、リディア!」
     あえて先程の表情や声音には気付かなかったふりをして、エッジは軽い調子で声をかける。
    「さっきのもう一回いけるか?」
    「さっきのって……シヴァ?」
    「そ。あのクールでセクシーなねーちゃん」
     エッジの言い方に、リディアは何言ってるのよ、と少しだけいつもの調子を取り戻して怒った。それから顔をしかめる。
    「……召喚は、できるよ。でも、シヴァは……」
    「いいから、呼んでくれ。タイミングだけ間違えるな」
     敵の前でおおっぴらに作戦会議は出来ない。端的に伝えていく。
    「……タイミング?」
     リディアが小さく首を傾げた。この局面だというのに不覚にも可愛いと思ってしまったエッジは、不自然にならない程度に視線を逸らす。
    「おうよ。ヒントは、ルビカンテの言葉とマントだ。じゃあ、頼んだぜっ!」
     そう言ってエッジは再び床を蹴った。言動や行動の割に彼女が聡いことを、エッジも知っている。
    「……そっか! 了解!」
     明るい声を背中に聞きながら、エッジはルビカンテに攻撃を仕掛ける。そこに、朗々とした詠唱が響き渡った。
    「我、リディアの名に於いて命ず! 来たれ、冷たく無慈悲な者。凍れる魂持ちたる者よ!災厄をその凍れる息吹にて閉ざしたまえ!」
     ルビカンテが小さく嘲笑する。
    「効かないのが分かっていないのか? あの召喚士は、愚かだな」
    「それはどうかな!?」
     エッジはそう言いつつ、ルビカンテと切り結ぶ。
     ルビカンテの言葉にも一理はあるし、シヴァの召喚魔法を唱えだしたリディアに、セシル達も疑問に思っているに違いない。しかし。
    「ローザ! エッジにヘイスト!」
     それでもセシル達が何も言わないのは、エッジに何か考えがあることを察してくれているからだ。
    「時を駆け抜く疾風の翼、彼の者に与えん! ヘイスト!」
     エッジの素早い動きが、さらに加速する。この援護はありがたい。エッジはセシルの判断力に舌を巻いた。
     そのままたんと床を強く蹴り、ルビカンテの懐に一瞬で潜り込む。ルビカンテが驚きに目を見開いた。
    「男を脱がす趣味はないんで、これだけいただいて行くぜ?」
     にやりと笑ってエッジが手に取ったのは、マントを止める留め金。そして勢いよく後ろに跳べば、ルビカンテを覆っていたマントが地面に落ち、赤いローブがさらされる。
     ルビカンテが舌打ちしてエッジに手を伸ばす。それをカインの槍の突きが阻んだ。
     エッジはルビカンテを睨み付けて、精神を研ぎ澄ます。実際に九字を切る余裕はない。だから、心の中で強く念じた。
     ――臨める兵、闘う者。皆陣列して前に在り。
    「我が呼び声に応えて出でよ! 氷の女王、シヴァ!!」
    「食らいやがれ! 水遁!!」
     刀印を切って放つのは、先ほど覚えたばかりの忍術だ。エッジの忍術とリディアの召喚したシヴァの放つ冷気がルビカンテに突き刺さる。
     それをまともに受けたルビカンテの膝ががくりと崩れた。
    「そう……か……。その手が、あったか……。力を合わせて戦う、という手が……」
     確かに、自分一人ではルビカンテを倒すことは叶わなかっただろう。それほどにルビカンテは強かった。
     ルビカンテの満足気な笑みを見ながら、エッジはそんなことを思う。
     この男のやったことを許すことは出来ないが、 ルビカンテが真の武人だったことは認めないわけにはいかなかった。
    「……叶うなら……もう一度お前たちと戦いたい、ものだ……」
     それが、最後の四天王、ルビカンテの最期だった。

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