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    FINAL FANTASY W 〜復讐の刃・6〜

     あまりの悲惨な出来事に、誰もエッジに声をかけることが出来なかった。
    「何て……むごいことを……」
     ローザが掠れるような小さな声で呟く。それが精一杯だった。
     その時だ。エブラーナ王と王妃が経っていた場所に突然炎が渦を巻き、その炎の中から赤いマントの男が現れる。顔を上げたエッジのまとう空気がぴりっと張りつめた。
    「ルビカンテ! ……てめえだけは……! てめえだけは絶対に許さねぇぞ!!」
     機敏な動作で立ち上がり、武器を突き付けてエッジが叫ぶ。セシルとカインも同時に低く身構えた。ルビカンテがゆっくりと口を開く。
    「お前の両親を魔物にしたのは、ルゲイエが勝手にやったこと……。しかし、その非礼は詫びよう……」
     セシルの脳裏を、このバブイルの塔で戦った狂った科学者の顔が浮かんだ。確かに、あの男ならばこのような非道を平気で行いそうだ。しかし。
    「ふざけんな!」
     ルゲイエの言葉をエッジが一喝する。
     こんな言葉でエッジの怒りが収まるわけがない。そもそもルビカンテがエブラーナに攻め込まれなければこんなことにはならなかった。
    「私は、お前のように勇気ある者は好きだ。……しかし、怒りの感情に振り回される人間では、完全な強さは手に入らん。……永遠にな」
     エッジは固く目を閉じていた。武器を持つ手が小さく震えている。その手に強く力がこもった、瞬間。
     セシルは小さく息を呑んでいた。エッジを中心に、力が渦巻いているのだ。
    「その、人間の……怒りってものを、見せてやるぜぇぇぇぇっ!!」
     エッジが忍刀と呼ばれる武器を携えたまま、低く身構える。先ほどのエッジとは覇気がまるで違う。怒りが、エッジに眠っていた力を呼び覚ましたのだ。
     ルビカンテが目を細め、感心したような声を上げる。
    「ほお、面白い男だ。怒りでそれほどの力を手に入れるとは。……だが、我が炎のマントは凍てつく冷気すら受け付けぬぞ」
     マントをはらったルビカンテがそう言って不敵に笑った。
    「さあ、回復してやろう」
     同時にセシル達を淡い回復の光が包み込む。ローザが小さくケアル、と呟いたのがセシルの耳に届いた。
    「――全力で来るがいい!!」

     怒りで我を忘れかけたエッジに、一人ではないことを思い出させたのは凛と響いた馴染のない二つの旋律だった。
    「我らに聖なる守護と盾を与えたまえ! プロテス!」
    「魔を阻む聖なる衣よ、我らを包み込め! シェル!」
     セシルとローザの放つ白魔法が、仲間全員を包み込む。
     エブラーナに魔道士はいない。そのためエッジの黒・白両魔法に関する知識は正直乏しい。だが、戦いを共にする以上はある程度の知識は必要だろうと、魔法の名と効果は教えられていた。
     セシルの使ったプロテスは防御力向上、ローザの使ったシェルは魔法防御力向上のはずだ。
     正直、その援護はエッジにはありがたい。忍者は素早さを第一とするため、無駄な筋肉はつけず、装備も軽さを重視して選ぶ。それ故にエッジは、セシルやカインと比べると打たれ弱いという弱点があるのだ。
     仲間がいる。そのことを思い出したエッジの頭の片隅が、急速に冷静さを取り戻していく。
    「――そらよっ!」
     エッジは隠し持っていた手裏剣をルビカンテに向かって放った。それは、狙い違わずルビカンテの腕に命中する。しかし。
    「ちっ! あんまし効いてねーかっ」
     刹那、背筋に悪寒が駆け抜け、エッジは本能のままにその場から飛びのいた。瞬き程の後、エッジがいた場所に炎が渦巻く。
    「ほぉ!? ファイラを避けるとは、素早い奴だ!」
     楽しげなルビカンテに、カインが槍を突き出し、そのままルビカンテと何合か打ち合う。
     そこに朗々とした詠唱が響いた。
    「我、リディアの名に於いて命ず! 来たれ、冷たく無慈悲な者。凍れる魂持ちたる者よ」
     それはエッジが初めて聞く響きだ。黒魔法は今までの戦闘でも使っていたが、これは明らかに違う。召喚魔法だろうと考えながら、エッジはミストの惨劇を思い出していた。
     それこそが、エッジが城を開けていた理由だった。バロンの異変とミストという小さな村が壊滅したらしいという情報を得たエッジは、王の命令でバロンの状況を探っていたのだ。
     そうしてミストの壊滅に続き、ダムシアンがバロンに攻め滅ぼされた情報を入手したところで、ルビカンテによるエブラーナ侵攻を聞き急遽帰国して、現在に至る。
     バロンに滅ぼされたミストの生き残りであろう少女。どこか投げやりだったエッジをまっすぐに見つめてきた少女は、いつものあどけなさを感じさせない声で呪文を唱える。
    「災厄をその凍れる息吹にて閉ざしたまえ! 我が呼び声に応えて出でよ! 氷の女王――シヴァ!」
     リディアの呼びかけに応え、氷をまとった女性が姿を現す。シヴァがふっと息を吹くと、氷の粒子が光を反射しながら舞い始めた。それがルビカンテを包み込むと、ルビカンテはこの戦闘ではじめて苦悶の声を上げた。
    「ぐっ!」
     ルビカンテはばさりとマントを翻して自分の身体を包み込んだ。ぱちんと留め金の音が響く。そして。
    「凍てつく烈風よ! 全てを閉ざす氷塊よ! 我をその無慈悲な腕で包み込め! ブリザラ!!」
     ルビカンテは氷の魔法を放つ。――自分自身に向かって。

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