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    FINAL FANTASY W 〜復讐の刃・4〜

     エッジの先導で進んだその先は、行き止まりだった。
    「……行き止まりだわ」
     呟くローザに、エッジが振り返る。
    「あったりまえだろ? バブイルの塔に大穴開けたりしたら、潜入の意味がねーじゃねーか」
     あっけらかんとそう言い放ち、セシル達を手招きする。言葉の意味が分からず首を傾げつつも、セシル達はエッジの周りに集まった。
    「あんま離れんなよ〜。――壁抜けの術! あーらよっと!!」
     刹那、空間が歪んだような気がした。そうして気が付けば、セシル達は見覚えのある建物の中にいた。
     現代の技術では製造することが出来ない物質で構成された床や壁を見れば、ここがバブイルの塔の中なのだとすぐに分かる。
     全員が驚きに目を見張り、エッジを見やった。その視線の先で、エッジは得意げに笑う。
    「さっ! さくさく進もうぜっ!」

     前回バブイルの塔に潜入した時とは違い、ひたすらに塔を降りてゆく。
     新たにパーティーに加わったエッジは忍だけあって、音や気配に敏感だ。さらに、素早い動きで敵を翻弄することに長けている。
     戦闘の仕方も性格的にも、今までの仲間内にはいなかったタイプだ。
    「……お前、忍だろう? ならば、何故そんなひらひらと目立つ格好をしている。解せんな」
    「だって俺様こそこそすんの性に合わねーし?」
    「馬鹿か、忍べ」
     カインとエッジのそんな会話に、セシルは思わず噴き出しかけた。
     カインがこんな風に誰かと他愛のない応酬を繰り返しているのは、珍しい。カインは口数が少ないし、愛想のいい方ではないので、誰かと言い合いになるようなことがないのだ。
    「いつの間にか……仲いいよね、あの二人」
     本人達が聞けば全力で否定しそうなセシルの言葉に、ローザは微笑んで頷いた。
    「そうね。……エッジって凄いわ。もうパーティーのムードメイカーになってる」
     うん、とセシルは頷いき目を細める。
     エッジはその明るさで既にパーティーに馴染んでいる。戦闘でともに戦っていても違和感がないほどだ。
     確かに口は悪いし、歯に衣着せぬ物言いに苦笑することもしばしばだが、本当は優しく情に厚い男なのだということは、少し行動を共にすればすぐに分かる。
     ふと、この抜け道に入る直前に出会ったエブラーナの民達を思い出した。
    「……エッジが、民に慕われている理由……分かる気がするよ」
     ローザの口元に柔らかな笑みが浮かぶ。
    「……そうね」
     セシルはふと瞳を瞬かせた。戦闘時以外でリディアがここまで一言も言葉を発しないのも珍しい。そう思って隣を歩く少女に視線を向けると、リディアはやや俯き加減に歩いている。
     その表情はセシルからは見えないが、まとう空気が何だかおかしいような気がして、セシルは眉をしかめた。
    「……リディア?」
     リディアの肩がびくりとはねる。
    「わっ! な、何? セシル」
    「様子がおかしいなと思って。……具合でも悪いのかい?」
     心配そうに覗き込むセシルに、リディアは慌てたように首を横に振った。
    「う、ううん! 違うよ!」
    「じゃあ、どうしたの?」
     同じく心配そうな表情のローザにリディアは笑顔を浮かべる。
    「えっと、考え事してただけだよ」
    「考え事?」
     リディアは小さく頷くと、前方を歩くエッジに視線を向けた。
    「ほら、さっきのエッジの……忍術? 魔法みたいなのに、魔力の流れを感じなかったから……不思議だなぁって……エッジに聞いても忍術はエブラーナの秘術だからって教えてくれなかったし」
     リディアの言葉に、セシルは違和感が拭えずにいた。先程リディアがまとっていた空気は、考え事をしているようなものではなかった。
     それはローザも同じらしく、セシルとローザは一瞬だけ視線を交わす。
     だが、リディアがそんな風に取り繕うということは、それだけ知られたくないことなのだろう。人には触れられたくないものというものが一つや二つはあるものだ。そして、それは根が素直なリディアでも例外ではない。
     そんな視線のやり取りに気付いているのかいないのか、リディアは小さく首を傾ける。
    「さっきの……えーと壁抜けの術? っていうのもデジョンとは違うし……テレポとも違うよね?」
     その問いかけに白魔道士であるローザもしばらく考え込んでから、首を傾げる。
    「そうね。……テレポではああいう現象は起こらないはずだけど」
     ローザの相槌にリディアがそうだよね、とこくんと頷く。そこから始まった魔道士二人の本格的な魔法議論に、初歩的な白魔法しか使用できないセシルはあっさりと蚊帳の外状態になった。
     セシルは小さく苦笑して、改めて前方を歩くエッジの背中を見る。彼が仲間になってから、パーティーの空気が変わった。ヤンとシドを立て続けに失って沈んでいたことが、まるで嘘のようだ。
     悲しみが癒えたわけではない。喪失感も消えはしない。けれど。セシルはエッジの存在に、改めて感謝した。

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