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    FINAL FANTASY W 〜復讐の刃・1〜

    「ねーねー、カイン」
     リディアの声がエブラーナの洞窟に響く。
    「……何だ?」
    「エブラーナってどんな国なの?」
     洞窟を入るなり発せられたリディアの問いに、カインはしばし考え込む。
    「……この島は周囲を強い海流で囲まれているため、船では簡単に出入りできない。だから、この島独自の文化が発達しているんだが……それ故、近年バロンが飛空艇で訪れるまで、ほぼ鎖国状態だったんだ」
    「……鎖国?」
     首を傾げるリディアに、カインは一つ頷いて見せる。
    「そう。他国との交流がほとんどなかった。だから謎に包まれた部分が多い国だ。バロンと同じ軍事国家で、忍術という独自の術を扱う忍者という戦闘集団がいるらしい」
    「忍術? 魔法とは違うのかな?」
    「さあな。その辺は俺には分からん。話に聞いたことがあるだけだ」
     そんなやり取りを聞きながら、セシルはローザと顔を見合わせて笑う。愛想がいい方ではないカインだが、リディアと会話をする時の声はいつもより心なしか柔らかい。
     その様子が何だか微笑ましくて仕方がない。
     セシルとローザの視線に気が付いたリディアが顔をあげて首を傾げる。カインは視線に気付かないふりをして、ふいと視線を逸らした。セシルはリディアに小さく笑いかけると、表情を真剣なものへと変えた。
    「さあ、進もうか。……魔物の気配がするから、気をつけて」
     リディアが大きく頷く。そうして魔物との戦闘を繰り返しつつ進んだ先に、セシル達が想像もしなかった光景が広がっていた。

    「……これは、町……?」
     そう呼んでも差し支えのない規模の人々が集まる場所が、洞窟の中腹にあった。セシルが不思議そうに呟いたと同時に、音一つなく人影が舞い降りる。
    「うわぁっ!?」
     目の前に立ってなおほとんど気配を感じさせない黒ずくめの男の急な出現に、セシルが思わず声を上げると、男はセシルに向けていた鋭い眼差しをほんのすこしだけ和らげた。
    「……人間か」
     そんな言葉が出るということは、ここは幾度も人の姿に化けた魔物に襲われているのだろう。ファブールが、バロン兵に化けた魔物に襲われたように。
    「あの……ここは……?」
     そんなことを考えながらの問いに、男は微かに視線を後ろに向ける。
    「ああ、エブラーナの民の生き残りがここに逃げ込んでいるんだ。そして、ルビカンテと戦っている」
     カインが感心したような吐息を漏らした。
    「四天王最強のルビカンテを相手に徹底抗戦か。……さすが、忍の末裔なだけある」
     その言葉に、無表情だった男が誇らしげに微笑んだ。そうして、奥を指し示す。
    「こんなところだが、休む場所くらいは提供している。奥に進むがいい」
    「ありがとう」
     奥に進みつつ、セシルは洞窟内を見回す。壊滅的な被害を負ってこの洞窟に逃れてきたはずのエブラーナの民は、誰一人として諦めていなかった。
     よくよく話を聞いてみると、ルビカンテの攻撃の際にこの国の王と王妃が行方不明になっているらしい。遺体を見た者はいないけれど、その生存は絶望的だということだった。
     それでも民が絶望していないのは、王子の存在があるからだ。ルビカンテ襲撃の際に城を離れていた王子は無事で、生き残った兵と民の指揮を執り、この洞窟に落ち延びさせたのだという。
     そして王子を中心にまとまってルビカンテと徹底抗戦をしている。この洞窟からバブイルの塔に通じる抜け道を掘っているとのことだ。
     それを聞いたカインは、苦笑した。
    「ずいぶんとバイタリティ溢れた王子様だな」
     それはセシルも同意見だ。ひとくくりに王子様といっても、この国の王子はダムシアンの王子とは一味も二味も違うらしい。
     けれど国民から「若」と呼ばれるこの国の王子が、民に心の底から慕われているのだということはわずかな時間でも感じられた。皆、若様が何とかしてくれると口を揃えて言うのだ。エブラーナの民が未だ絶望していないのは、若様の存在があるからこそだろう。
    「みんな、王子様が大好きなんだね」
    「そうね」
     リディアとローザの会話を聞きながら、セシル達は洞窟の一番奥にある寝所を見渡した。エブラーナの民の非戦闘民はここに集まっているらしい。その中に一人、複雑そうな表情をした老人がいた。
     どこか威厳を感じるその姿と放つ気配に、只者ではないだろうと思いながら、セシルは声をかける。
    「どうかしましたか?」
    「ん? そなたは……」
    「失礼いたしました。僕はバロンのセシルと申します」
    「わしはこのエブラーナで家老を務めておる者です」
     聞きなれない単語に、セシルは数度瞬いた。
    「家老?」
    「ああ……エブラーナの言葉でしてな。早い話が、若のお目付け役です。若は口は悪いが、優しいお方。今回の件でも、よく民を率いておられるのですが……」
     そう言って、家老はふうと重い息を吐いた。
    「だが熱くなると周りが見えなくなるところがあって……。その若の姿が見えんとは……よもや、また、無茶な真似を……!?」
     すでに独り言に近い。そう言ってそわそわとする家老は、本気で王子の暴走を案じているようだ。
    「あ、あの……! あたし達、これからバブイルの塔に潜入したくて、ここに来たんです」
     突如口を開いた人物に、全員の視線が彼女に向けられる。リディアだ。
    「バブイルの塔に? 確かに、ここから続く抜け道を使えば……」
    「はい。だから、奥に進むんですけど……その時に、その若様のことも探して……伝えておきます。おじいさんが心配してたこと」
     そういうリディアを家老はじっと見つめ、それからセシル達に視線を向けた。探るような視線に、セシルは無意識に居住まいを正す。家老は、ひとつ大きく頷いた。
    「……確かに、相当の実力をお持ちの様子。どうぞ、奥へお進みください。抜け道へと続く洞窟を守る兵には、そなた達が通る旨を伝えておきましょう」
     気配からおおよその実力を察する辺り、この老人も昔はかなり腕の立つ忍だったのかもしれない。
    「その代わりと申しては何ですが……若のことを頼んでもよろしいでしょうか?」
    「うん。ありがとうございます!」
     リディアが満面の笑みを浮かべる。見る人を和ますその笑みに、家老も目元を和ませたのだった。

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