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    FINAL FANTASY W 〜悲しみの連鎖・4〜

     セシル達一行はバブイルの塔を物凄い勢いで駆け抜けていく。目指すのは、唯一鍵のかかったあの部屋だ。
     ふと、セシル達の目の前にナーガという人間の女性の顔に蛇の身体を持つナーガという魔物が立ちふさがった。しかし。
    「どけーっ!」
     ヤンが走る勢いそのままに放った跳び蹴りが、ナーガを一瞬にして倒していた。普段のヤンにこれほどの力はない。火事場の馬鹿力というやつだろう。
     そうして、彼らは鍵のかかった部屋に辿り着いた。一番に辿り着いたヤンがカードキーを、扉の横に設置された箱に通す。すると箱からぴっという小さな音がして、目の前の扉があっさりと開いた。
    「開いたわ!」
     ローザの歓喜の声を聞きながら、セシル達はその部屋に入る。
     そこは、この異質な塔の中でもさらに異質な空間だった。入って正面の壁に青いガラスの板のような物が設置されており、そこにはセシルには理解不能な数字や単語が表示されている。それが、この部屋には三ヶ所あり、それぞれの板の前でゴブリンキャップが何かを操作していた。
     何をしているのかは正直分からないが、ここが巨大砲の制御室で間違いなさそうだ。
    「お前達! その操作をやめろ!!」
     セシルの一喝に、ゴブリンキャップ達は申し合わせたように同時にびくりと肩を震わせると、こちらを振り返った。
    「うわぁぁぁ! 貴様ら、何故ここにっ!?」
    「もしや、巨大砲を止めにきたのか!?」
    「そうはさせるかぁっ!」
     口々に話す内容からするに、巨大砲を止める気はないらしい。
     セシル達はそれぞれ武器を構えた。この広くない部屋で黒魔法や召喚魔法を使用するわけにはいかないとちらりとリディアを見やれば、リディアは心得たように鞭をしならせた。
     ローザも矢を番え、ぎりりと弓を引き絞っている。
     セシル達の今の実力ならば、正直に言ってゴブリンキャップなど敵ではない。
     勝負はセシル達の圧勝で終わった。だが、そこで予期せぬ事態が起こったのだ。
    「くっ……せめて……戦車隊は全滅させてやる!」
     そう言ったゴブリンキャップの一匹が、機械の一つに駆け寄ると何かのボタンを押したのだ。それは瞬きほどの時間の出来事で、誰にも制止することが出来なかった。
    「キャハハハハ! ざまぁ、みろ……!」
     暴挙に出たゴブリンキャップは、そこで力尽きた。
    「しまった!」
     何とか機械を停止させようとセシルは機械に駆け寄ろうとした。けれど、振動と共に装置がいきなり火花を噴いて、近づくことが出来ない。
     ヤンも唇を噛み締めて装置に近づこうとするが、装置から出た火花が床を焦がしたのを見て、眉をしかめた。
    「……どうすればっ」
     セシルはそう呟いて、巨大砲の装置を睨みつける。ドワーフ達を見捨てることなど出来ない。だが、近づくことすら危険なこの状況でどうすればいいというのか。
     その時。一番装置の近くにいたヤンが、セシル達を振り返った。その瞳に宿る深い色に、セシルは反射的に息を呑む。嫌な予感が、した。
    「……ヤン?」
    「ここは私が引き受けた。皆は早く脱出を!」
     その言葉に、カイン、ローザ、リディアも次々に息を呑む。
    「いやっ!」
    「暴発するぞ! ヤン!」
     首を横に振るリディアと血相を変えたセシルを見つめ、そしてカインとローザに視線を向けたヤンの目元がほんの一瞬だけ緩む。そして。
    「……ごめん!」
     ヤンがその場で放った回し蹴りの風圧が、セシル達を部屋の外へと吹き飛ばした。
    「!?」
     直撃していれば、どれほどの威力だったことか。ヤンの渾身の一撃だったに違いない。床を転がったセシルが慌てて身体を起こすと、制御室の扉が閉じかけているのが見えた。中にヤンを残したまま。
    「ヤン!」
     セシルは叫んで駆け出した。あとに、三つの足音が続く。そうして部屋に辿り着く前に、扉は無常にも閉ざされた。カチンとロックがかかる音がした。カードキーはヤンが持っているため、セシル達にはこの扉を開ける手段がない。
    「……妻に伝えてくれ。私の分も生きろ、と……」
     静かな、けれど穏やかな声に。カインが扉をがんと殴りつける。
    「ここを開けろっ! ヤン!」
    「ヤン、お願い! 馬鹿な真似はやめて!」
     扉の向こうで、ヤンが微笑んだ気配がした。
    「――楽しい、旅であった!」
    「ヤン!」
    「開けろ! ヤン!」
     振動が大きくなる。同時に扉越しにも感じるほどのヤンの裂帛の気合と雄たけびが響き――。
     扉の隙間からの激しい閃光と爆音に。セシルは固く目を閉じて、爆発のせいでびくともしない扉を殴りつけた。深い喪失感が、セシルの胸を抉る。
    「ヤ、ン……。ヤンーーーーッ!!」
     慟哭がバブイルの塔に響いた。
    「ヤン……やだ……いやだよぅ……」
     嗚咽をあげるリディアを、ローザが優しく抱きしめる。ローザの頬もまた涙で濡れていた。
    「ヤン……私達と、ドワーフのために……」
     その横では、カインが俯いて肩を小さく震わせていた。巨大砲を止めるにはこれしかなかったのかもしれない。そう理解はしても、こみ上げてくるのはどうしようもないほどの悲しみと、怒りだ。
    「……馬鹿野郎が」
     そう呟いたカインの声は不自然なほどに静かで。それが、カインの悲しみを表しているかのようだ。
     セシルは小さく息を吸って、乱れた息を整える。
     こんなに悲しくて辛いのに、セシル達に立ち止まることは許されていない。立ち止まっては、ここで犠牲になったヤンに申し訳が立たない。
     セシルは手の甲で頬をこすると、仲間達を振り返った。
     俯いていたカインも顔を上げると、セシルに頷いてみせる。身を寄せ合っていたローザとリディアも、流れた涙はそのままに頷くのを確認して、セシルもまた頷いた。
    「……いこう! 脱出して、クリスタルを奪回するんだ……!」

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