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    FINAL FANTASY W 〜悲しみの連鎖・3〜

    「ぐっ……!? 何の、これしき……! ああああああっ!?」
     雷を何とか耐え切ったルゲイエは、白煙を上げて動かなくなったバルバナを見て頭を抱えた。
    「バルバナ!? わしの可愛いバルバナがっ!? くっ、おのれ……こうなったら……」
     ルゲイエはそう言いつつ、壊れたバルバナの身体によじ登る。
    「わしがバルバナを操縦するまでよ!」
     よくよく見てみれば、バルバナの背中には操縦台のようなものがついている。何かのスイッチを押すような音が響いた。
    「くらえい! ルゲイエ特製、リバース・ガスじゃい!」
     その言葉と同時にバルバナの口から緑色のガスが噴出され、ルゲイエも含めセシル達を包み込んだ。
    「ぐっ……! 何だ!? このガスは……!」
    「ただのガスでは……なさそうですな!」
     予想外の攻撃に、咄嗟に息を止めることも敵わず、ガスを吸い込んでしまう。カインとヤンの言葉に、セシルは小さく頷いた。やがて、辺りを漂っていたガスが消えていく。その中で、ルゲイエが狂ったように笑っていた。
    「ヒャーッヒャッヒャッヒャッヒャ!」
     その異様さに、セシル達は一様に構える。その様子をバルバナの上から眺めて、ルゲイエはにたりと口角を上げた。
    「治療してやるぞい! それっ!」
     かちりとスイッチを押す音とともに、バルバナが右手から治癒の光が放たれ、セシル達を包み込む。だが。
    「っ!?」
    「きゃあああ!」
     治療用の光は、しかしセシル達を癒すことはなかった。それどころか、身体中を容赦なく引き裂いて、消える。そのダメージとショックで、全員が思わず床に膝をついていた。
    「な、んだ……!?」
     呆然と、セシルは呟いて血に塗れた自分の手のひらを見下ろした。何が起こったのか分からない。
     そんなセシルの様子を見て、ルゲイエは笑い続けている。
    「痛いか? 苦しいか? どれ、もう一度……」
     その言葉を遮るように、どこか幼さを残した声が、フロアに響く。
    「ローザ! あっちに回復!!」
    「真白き光よ、優しき祝福よ! 彼の者を癒したまえ! ケアルラ!!」
     反射的に応じたローザは白魔法を紡ぎ、放つ。リディアが指差した方向――ルゲイエに向かって。
    「ぎゃあああああ!」
     ルゲイエの声が笑い声から悲鳴へと変わる。全身に傷を負ったリディアは立ち上がって、ルゲイエを睨みつけた。
    「おじいさん、しゃべりすぎだよ! リバース・ガスってつまり、攻撃と回復の効果を逆転させるガスでしょう!?」
     落ち着いたリディアの声に、セシルは目を見開いた。
     戦闘中でも冷静さを失わず、知識と知恵とゆるぎない精神力を持って道を切り拓く者――黒魔道士。リディアは確かに優秀な黒魔道士なのだと実感するのと同時に、セシルは取り乱してしまった自分に情けなさを感じて苦笑を漏らす。
     やっぱり、この子には敵わない。
     セシルは両足に力を込めて立ち上がった。傷が痛むが、動けないほどではない。それよりもむしろ、精神的なダメージの方が大きかったのだ。
    「……ローザ!」
     セシルの呼びかけに、ローザが力強く頷いた。そうして、詠唱が唱和される。
    「「真白き光よ、優しき祝福よ! 我らを癒したまえ! ケアルラ!!」」
     セシルとローザの回復魔法の重ねがけに、ルゲイエは再び悲鳴を上げると、腕を叩きつけるようにスイッチを押した。
     再び緑色のガスが噴射されるが、仕掛けが分かってしまえば、それほど恐れるものでもない。
     逆転していた効果がさらに逆転したのだから、今は攻撃が効くはずだ。
    「リディア! カイン! ヤン!!」
    「輝ける閃光よ! 裁きの雷よ! 彼の者達に断罪の刃を与えよ! サンダラ!!」
     セシルの叫びに応じたリディアが生み出した雷がルゲイエに突き刺さり、気合を込めて繰り出されたヤンの踵落しがバルバナの操縦台を粉砕する。そして、カインの渾身のジャンプからの槍の一突きが、ルゲイエの胸板を貫通し、バルバナをも貫いたのだった。

     狂える科学者は、土気色の顔色をしながらもまだ狂った笑いを口元から漏らしていた。
    「ヒャッヒャッヒャ……。貴様ら、クリスタルを取り返しに来たんじゃろう? 残念じゃったなぁ……クリスタルはルビカンテが地上部分に運んだわ……」
     そう言ってから、残虐な笑みを浮かべる。
    「そして、あのうっとおしいドワーフ戦車隊も……もうすぐ、この塔の主砲……巨大砲で……全滅する」
     その言葉に、セシルは顔色を変えた。
     クリスタルがないことに衝撃を受けたのはもちろんだが、それ以上に衝撃的な言葉があった。
    「何だと!?」
     セシルの反応に、ルゲイエは満足そうな笑みを浮かべると、そのままがくりと首を項垂れた。
    「くそっ」
    「どうしよう……このままじゃ、ドワーフさん達が……!」
     思わず悪態をつくセシルに、リディアが声を震わせる。
    「この塔の高さを考えれば、戦車隊など赤子も同然! 何とかせねば……!」
     ヤンの言葉に、ローザは頷きつつも表情を曇らせる。
    「巨大砲って言っていたわね……。どこにあるのかしら? この先では……なさそうだけれど」
     ローザの視線の先には、先程ルビカンテが消えた床があった。ルビカンテは地上に戻ると言って、この床に乗り消えた。ならば、この先は地上部分に繋がるのだと考えるのが自然だ。
    「……どちらにしろ、装置が起動していないな。これではどうしようもあるまい」
     念の為に床を調べていたカインが首を横に振る。
     その時、ルゲイエの服の袖から落ちたカードに、ヤンが気付いた。それを拾い上げて首を傾げる。
    「……これは?」
    「それは、カードキーだ!」
     カインの言葉に、セシルは数度瞬く。
     この塔で唯一鍵をかけて守られていた部屋。最初はクリスタルが安置されているのではと考えたが、どうやら違うらしい。ならば、そこまでして守られているものとは、何なのか。
    「……巨大砲!?」
     セシルの言葉に、全員が頷いた。
    「ローザ! 回復を頼む! みんな、いけるな?」
     ローザの詠唱が響き、治療の柔らかい光に包まれながら、全員が再び頷いた。先程の戦闘の疲労はあるが、そんなことを言っている場合ではない。
     セシル達はその場から勢いよく駆け出した。

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