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    FINAL FANTASY W 〜霧の中の真実・4〜


    山間にある、霧に包まれた穏やかな村。それが、ミストの印象だった。
    「ここがミストか……」
     周囲を見回しながら、カインが物珍しげに呟く。
    「この指輪……村長さんに渡せばいいのかな……」
     セシルが道具袋の中からボムの指輪を取り出した、その時。
     指輪が目も眩むような赤い光を放ち、光の中から炎の魔物――ボム――が何匹も生まれる。
    「なっ……!?」
     ボムは宙を縦横無尽に駆け巡ると、村中に火の粉を振りまいて、去っていった。穏やかな小さな村が、一瞬で地獄絵図と化す。
    「こ……これは……」
     呆然と立ちすくむ事しか出来ないセシルの横で、カインが忌々しげに舌打ちをした。
    「この村を焼き払うために、俺達に指輪を届けさせたということか!」
     セシルはがくりと膝をつき、右の拳を地面に叩きつけた。
    「なぜだっ!? バロン王ーーーーっ!!」
     何故、こんな無意味な殺戮を繰り返す。憎しみや悲しみを自ら生み出そうとする。
     その時、微かに泣き声が聞こえた気がした。
    「……誰かいるようだな」
     カインがぽつりと呟く。彼にも聞こえていたというならば、これは空耳などではないのだろう。
    「……いってみよう」
     セシルはふらっと立ち上がると、声のしたほうこうに駆け出した。カインは黙って後に続く。
     燃え盛る村を駆け抜けると、小さな池が見えた。そのほとりに茶色の髪の女性が倒れており、その横には緑色の髪の少女が泣いている。
    「おかあさん……ヒック」
     倒れている女性が既に息がないのは、遠目からみても明らかだった。
    「……女の子……」
     セシルの声に、少女が弾かれたように顔を上げ、縋るような瞳でセシル達を見つめてくる。
    「おかあさんが……お母さんの、ドラゴンが死んじゃったから……お母さんも……!」
     その言葉に息を呑んだのは、セシルだけではない。
    「何だって……? じゃあ、僕らは……君の、お母さんを……!」
     少女の縋るような瞳が、見開かれた。その瞳に、強い感情がこもる。憎しみという名の強い感情が。
    「じゃあ……お兄ちゃんたちが、お母さんを……!」
     カインが低い声で呟いた。
    「そう言えば……聞いたことがある。魔物と心を通わせ、力を借りる者……召喚士」
    「まさか……君のお母さんを殺してしまうことになるとは……」
     洞窟の中で聞こえたあの女性の声は、この少女の母親のものだったのだろう。俯くいて、ぐっと拳を握り締める。その視界の隅に、槍の切っ先を認めたセシルは、息を呑んで顔を上げた。
     カインの槍が、少女に向けられている。
    「カイン!?」
    「陛下の意図はこの村の召喚士を滅ぼすことだ! 可哀相だがこの子もやらねばなるまい!」
    「まだ子供だぞ!?」
    「やらねば俺達がやられる!」
     セシルは息を呑んだ。
     そんなことはない、とは言えなかった。この村の惨劇を起こしてしまった、今となっては。ミストの者を一人でも見逃せば、セシルとカインに待っているのは、処罰という名の死だけだろう。
     カインは、正しい。だが、セシルにはカインが本気で少女に槍を向けているようには見えない。
     カインの視線はセシルを強く捉えたままだ。
     ――お前は、どうしたい? そう、問われている気がした。
    「……ここまでして、陛下に従うつもりはない!」
     言い切ったセシルに、カインは口の端に小さく笑みを浮かべると、構えを解いた。
    「フッ。そう言うと思った。……俺も陛下には恩がある。しかし、竜騎士の名に恥じるような真似は出来んからな」
    「カイン!」
    「……とは言ってもバロンは世界一の軍事国。俺達二人がいきがったところでどうにもなるまい。他国に救援を要請する必要があるな。それから、バロンにいるローザも救い出さんと」
     この親友は、いつもこうだ。冷たい振りをして、本当に大事な場面では絶対に手を差し伸べてくれる。
    「カイン……! ありがとう!」
     まっすぐなセシルの感謝の言葉に、セシルは笑みを歪める。
    「……お前のためじゃないさ」
    「え……?」
     その真意を問いただそうかとも思ったが、今はそれどころではない。
    「脱出しないと!」
     セシルの言葉に、カインは口元を引き締め、頷いた。
    「この子はどうする?」
     涙に濡れた瞳で、こちらを強く睨みつけてくる少女。放っておけるわけなどない。
    「連れて行こう! ……さあ、ここは危険だ! 僕らと一緒に……」
     優しく語りかけ、手を伸ばすセシルの手を弾いて、少女は一歩後ずさった。
    「いやっ! さわらないで!!」
     カインが小さく舌打ちをする。
    「仕方あるまい、力ずくでも……!」
     少女の顔が恐怖に歪む。カインの手が少女に触れる寸前、少女を中心に不思議な風が、吹いた。
    「いやっこないでぇっ! ……みんな、みんなみんな……だいっきらい!!」
     風の正体が、少女から発する魔力の奔流なのだとセシルが気付いた、瞬間。
    「いやーーーーーっ!!」
     少女の体から光が放たれたかと思うと、少女とセシル達の間に石の巨人が現れた。巨人はその巨大な手を組むと、思い切り地面に叩きつける。
     その衝撃によって地面は割れ、激しい隆起を繰り返した。
    「うわぁぁぁぁぁっ」
     セシルの意識は、闇に落ちる。その直前、石の巨人が虚空に消えるのを見た気がした。

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