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    FINAL FANTASY W 〜霧の中の真実・2〜


     ミストの村に続く唯一の道である洞窟には、深い霧が立ち込めていた。
    「噂には聞いていたが……凄い霧だな」
     カインの呟きに、セシルは無言で頷く。思っていた以上に霧が濃く、視界が利かない。この周囲の魔物はセシルとカインの敵ではないが、それは普段の力を出せてこそだ。
     この状況で不意打ちを受ければ、勝てないとは言わないが、相当苦戦することは確かだ。
     それに視界が利かないならばいつも以上に周囲に神経を配らねばならず、その状態が体力と精神力を削るだろうことは、想像に難くない。
    「……行くぞ、カイン」
    「ああ」
     二人は警戒を強めつつも、洞窟の中に足を踏み入れた。
    「セシル、足元に気をつけろ」
    「ああ。……随分湿ってるな。……霧のせいかな」
    「恐らく、な」
     セシルは足元に視線を落とし、水に濡れた苔を確認した。遠く、水音が響く。どこか天井から水が垂れているのだろう。魔物の気配はするが、どこか神聖な雰囲気の漂う洞窟だ。
    「……幻獣、か。……一体どんなものだろう?」
    「一応、簡単には調べてみたんだがな。ほとんど分からなかった。先代の国王が魔法関係のものは疎んじておられたからな。……だが、この洞窟には霧の魔物が出るらしい」
    「まさか……それが?」
    「フッ、さぁな」
     そう言いながら、カインが愛用の槍を構える。セシルも暗黒の剣を抜く。同時に霧の中からゴブリンの群れが飛び出した。
    「……この霧、厄介だな」
     カインは疲れたようにため息を吐きつつ、ゴブリンを一撃で倒す。
    「確かに。どこから魔物が出るか分かったものじゃない!」
     セシルは気合と共に剣を上段から振り下ろした。一匹を倒したことを確認する間もなく、返す刀で次の一匹を切り捨てる。
    「こんなところは早く出たいものだ」
     カインの鋭い突きが、最後の一匹の身体を貫いた。

     しばらく進んだ時の事だった。凛とした女性の声が、洞窟内に響く。
    『――……立ち去りなさい』
     セシルとカインは同時に周囲を見回すが、人の気配も魔物の気配もない。
    「誰だ!?」
    『今すぐ、立ち去りなさい』
     声が反響しているせいで、声との距離感も掴めない。
    「カイン。……人の気配、したか?」
    「いや。……今も、感じんな」
     二人は警戒を強めつつも、洞窟の奥へと歩みを進める。ふと、霧の向こうに階段が見えた。
    「あれ……出口、かな?」
    「そのようだな」
     カインが頷くと同時に、再び女性の声が響く。
    『立ち去りなさい!』
     先程よりもはっきりと響いた声にセシルとカインは息を呑み周囲を見回したが、やはり誰の姿も確認することが出来ない。だが、戦士としての勘が訴える。この霧の中に、何かがいる。
    『何者だ!姿を見せないか!!』
     カインが警戒心も露に槍を構える。
    『……どうしても、立ち去らないと言うのですか?』
     女性の声が、僅かな悲しみを含んだような気がするのは、セシルの気のせいだろうか。
    「僕達は、指輪をミストに届けなければならないんだ!」
     虚空へと叫んで、セシルも暗黒の剣を構えた。
    『……ならば、仕方がありません』
     静かな、けれど力強い女性の声に応じるように、洞窟中の霧が集まり始めた。セシル達の、目の前に。
    『力ずくで止めさせていただきます!』
     そして集まった霧が、白銀の竜へと姿を変えた。
    「霧の魔物!?」
    「幻獣かっ!!」
     セシルは剣を構えつつも、違和感に眉をしかめた。魔物と相対しているのに何故、と考えて目の前の魔物がその原因であることに気付いた。
     目の前の魔物から、痛いほどの殺気を感じているのに、その中に敵意を感じないのだ。
     敵意を持たない相手に対して剣を向けることに抵抗がないといえば、嘘になる。だが。
    「分かっているな、セシル!」
     セシルの心を読んだかのようなカインの言葉に、セシルは迷わずに頷いた。
    「ああ!」
     黙って殺されてやるようないわれはない。
     それい、自分達の任務は幻獣討伐なのである。躊躇する理由もなかった。
    「フッ、ならば行くぞ!俺が奴の気を引くっ!」
     同時に、カインが人間離れした脚力で洞窟の天井近くへと跳躍した。竜騎士の得意技・ジャンプだ。落下速度と重力を味方につけ敵に大打撃を与えるという技である。
     僅かな滞空の後、カインが槍と共に竜の真上に落ちる。竜が甲高い悲鳴を上げた。その隙を狙って、セシルは剣を振り下ろしたが、しかし。
    「くっ!」
    「うわぁっ!」
     剣が頭を捉える瞬間、竜の体が霧散し剣はあっさりと空を切った。そして、仕返しと言わんばかりの霧のブレスが二人を襲う。
    「全く!口がないというのに、どこからブレスが出るんだ!」
    「……余裕だな、カイン」
     武器を構え直し、霧となった竜を睨みつけるが、動きがない。どうやら、霧の状態の時に攻撃を受けると、カウンターとしてブレスを使うようだと気付いた。
     向こうが霧の形状の時に、こちらから攻撃を仕掛けることは出来ない。だが逆も然り、だ。
    「フッ、弱点判明だな。……もう、俺とお前の敵じゃない」
     不敵なカインの言葉に、セシルも頷く。さあっと霧が集まる。竜が実体化する瞬間。そこが、チャンスだ。
     二人は同時に床を蹴った。短い気合と共に突き出されたカインの槍が竜の頭を貫き、セシルの下から掬い上げるよう斬撃が竜の胴体を薙いだ。
    『ああああああっ!』
     悲鳴を残して、竜の姿が消える。それを見届けたセシルとカインはお互いの拳を打ちつけた。

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